全国舞台照明技術者会議に参加して、今後のLED照明の進化と労働環境について考えてみた

今年も東京で全国舞台照明技術者会議が開催されました。

全国舞台照明技術者会議は、日本照明家協会東京支部主催の舞台照明に関する勉強会です。若手の照明家や学生・教職員、演劇関係者やホール・劇場関係者などを対象にしていて、協会員でなくても誰でも参加することができます。

くらげがこの会議の存在を知ったのは2016年だったのですが、今年は技術者会議の存在も開催時期も忘れていたところに今月開催だということを知り参加することにしました。

ただ、1日目は参加できず2日目のみの参加となります。

第一部 LED機材が劇場にやってくる!?

第一部は、国内メーカー4社のLED機材と従来のハロゲンスポットを比べながらLED機材について学んでいきます。
1部が始まり数分後。実は最初はすべてLED機材で作られた明かりが点灯している中で進行していたのですが、実は3分掛けてハロゲンスポットで作られた明かりへと変化していました。それを言われて改めて見てみたものの、その変化の違いには全く気づきませんでした。

会場の参加者に気づいたかどうかを問いかけたところ、気づいた方は全くいませんでした。MCの林氏も明かりの変化としては気付かず、暑くなってきたなと言う体感で変化に気づいたようです。

LEDとハロゲンスポットの違いを見る

次に、各所に吊られたLEDとハロゲンスポットの違いについて見ていきます。
まずは地明りです。地明りのフレネルレンズスポットは均等に4台吊られています。LEDとハロゲン、それぞれ交互に点灯と消灯を繰り返しましたが、LEDの方が若干ハレーションの当たり方が違うのと影が少し濃いように感じました。

続いてブッチです。1SUSの上手と下手にそれぞれ2台づつ交互にLEDとハロゲンスポットが吊られています。何度かカットチェンジを繰り返してLEDとハロゲンを見比べてみましたが、全く違いはわかりませんでした。

次にバックライトです。2SUS下手側に3台づつ交互にLEDとハロゲンスポットが吊られています。舞台上には下手側に紅葉、上手側に桜の立木が置かれておりこの立木を照らしているのですが、こちらもほぼ違いはわかりませんでした。

次にフロントサイドです。ハロゲンスポットとLEDスポットが3台づつ吊られています。LEDのほうがハレーションが少ないように感じました。
それからSSです。立木を当てています。立木の色味はほぼ変わりませんが、LEDのほうが若干影が濃いように感じました。

LEDとハロゲンスポットの分光分布図を見る

LEDは1kW相当の明るさのスポットライトを用意しています。カタログ上では色温度はハロゲンが3050kでLEDは3200kとなっています。今回は、スペクトロメーターという波長計で測定しながら分光分布の違いを見ていきます。
こちらはLEDスポットとハロゲンスポットの中にどの色の波長がどれだけ含まれているか表わす分光分布図です。スペクトロメーターでは測定した光源をこんな感じで表示することができます。

ハロゲンの分光分布図はブルーが少なく、赤が多く含まれていてなだらかな形状をしています。色温度は100%の状態で2806kです。50%では2456k、30%では2152kとゲージをかけるにつれて赤みが増し、色温度が下がっていっています。
対してLEDスポットライトにはハロゲンと比べて緑色の部分がなく青色が突出しています。白色LEDには青色LEDが使われておりこの青色を吸収して赤や黄色、緑などの蛍光体を光らせています。
混ぜる蛍光体の量が増えると効率が落ちるため、演色性や効率を考えて最適な状態の分光分布がこの形です。

色温度は100%の状態で3151kです。30%に下げたところ、この実験では周りの影響もあって色温度が上がるという結果になってしまいましたが実際は変わらないはずです。

ゲージをかけた場合の分光分布図は、青から赤へ緩やかなカーブを描いたままの状態で光量が落ちるとともに下がっていきます。

LEDとハロゲンスポットの色味の違いを見る

次に、ポリカラーの色を使ってLEDとハロゲンそれぞれどういう色味になるのかを見ていきます。
まずは#35。どちらかというとアンバーの中でも明るさと白味を感じるアンバーですが、LEDとハロゲンで比べてみるとハロゲンのほうが赤みが強く感じます。
さらに、ゲージを20%まで落としていくとより赤みが強くなり、もはや#35ではなくなっています。一方でLEDは20%まで落としても色味は#35のまま状態を保っています。

次に#64で見てみます。#64は青みの強いブルー・グリーン系ですが、こちらもハロゲンは赤みを感じます。LEDはとてもきれいなブルー・グリーンです。使い方によっては#64は汚くなりがちな色ですが、LEDで出ている#64だったらきれいに染まりそうです。

ゲージを落としていくと、20%くらいまで落としてもLEDの方は青みが残っていますが、ハロゲンの方は赤みが強くなったせいでブルーが消えてしまい白っぽいような色味になってしまっています。

次に#77です。この色はブルー系ですがどちらかというと緑味が強いブルーです。
LEDはきれいなブルーの色が出ていてゲージを落としてもブルーの色味が残っていますが、ハロゲンの方はゲージを落としていくとブルーの色味が薄くなっています。

次に#78です。薄いブルー系でLEDは雑味のないすっきりとしたライトブルーですが、それに比べてハロゲンは光源の赤みが混じってブルー・グリーンに見えてしまいます。
そしてゲージを落としていくと、#64と同じようにLEDはブルーの色味が保たれていますが、ハロゲンは色味が消えてしまっています。

次に#88です。LEDはとてもきれいなラベンダーという色味ですが、ハロゲンは赤みを感じるパープルといった感じです。ゲージを50%まで落とすと、ハロゲンの方はより赤みが強くなっています。

次に参加者からのリクエストで、#85です。LEDと比べてハロゲンは濃いピンク系に感じます。そして、ゲージを落とすとハロゲンはよりピンクの色味に変化しました。

次に、くらげからのリクエスト。濃いブルー系が見たくて#72と迷ったのですが#71にしました。LEDは雑味のまったくないきれいなダークブルーが出ています。ハロゲンはゲージを落としていくとさらに赤みが増すのかなと思ったら、思ったよりは青みが保たれていました。

LEDとハロゲンのロアーホリゾントライトを比べてみる

ハロゲンのローホリには#73、#59、#22、#40という一般的にホールで使われている4色のポリカラーが入っています。LEDは6色のLEDで混色していくタイプのローホリです。
今回、オペレーターの方がLEDでハロゲンの色味を作っていたのですが、#73はブルーとグリーンで混色していて、かなり近い色になっていました。#59はグリーンとブルー、アンバーで混色するとかなり近い色味になります。#22はレッド、グリーン、アンバーの3色で作るとハロゲンの#22に近い色味になりました。

そして、LEDで作った色とハロゲンのローホリを一緒に落としていくと、ほぼ違いはわからない状態で落ちていきました。
LEDのホリゾントライトはくらげも昨年末に使用しましたが、ほぼハロゲンとの違いはわかりませんでした。色味も、混色の割合さえ覚えてしまえばハロゲンでの色味を出すことは難しくありません。あとは慣れだと思います。

国内メーカー4社のLED対応調光卓を比べてみる

日本橋公会堂ホールの客席中通路には国内メーカー4社のLED機材を調光できる機能を搭載した調光卓が並んでいます。これから、東芝エルティーライティング、パナソニック、松村電機製作所、丸茂電機各社のLED調光に対応した最新の調光卓を見ていきます。

まずは東芝。
今回持ってきている調光卓は、"TOLSTAR-III TypeF"です。すでに会館やホールには納入されている卓ですが、今回は舞台向調光操作卓専用カラーLED器具操作システムというシステムを引っさげての紹介です。
LEDのカラー指定はカラー操作パネルおよびカラーパレットから選択しますが、CUEを記憶する際の操作手順は従来の調光卓と同じです。操作はマウスかタッチパネルが使用できます。

パナソニック。
ムービング調光卓の"TESTA"です。こちらもすでに納入実績があり、3段プリセット卓と連動しての調光が可能です。この卓自体は非常にコンパクトで、モニターは10.1型のAndroidタブレットを使用しています。なので画面は小さいです。
松村電機製作所。

新製品のカラーLEDコントロールPC、"F-Cz"です。従来の調光卓にリンクさせて使用できます。この卓自体はノートPCなので画面が15インチくらいの大きさなのですが、その大きさの中にカラーパレットやカラーピッカー、キューシートなどの画面が4分割されているため非常に見にくいです。指でタッチすることも難儀しそうな大きさです。

丸茂電機。
LED制御機能付き小型調光卓の"PRELUCE 2"です。丸茂電機としては珍しくデザインを気にした卓だそうです。
そうは言っても、くらげは他のメーカーのようにかっこつけた英語表記ではなく日本語表記で視認性と操作性の高いPRETINA-Mが好きですので、調光卓のデザインはかっこよさではないです。
カタログを見てみると、この卓の色使いやボタンデザインは東芝のLICSTAR-Ⅳと松村のFシリーズによく似ているのですが、それでいいのですか?丸茂さん。

国内メーカー4社の調光卓についての意見

以上の国内メーカー4社の調光卓を見比べてみて、いろいろな意見が出てきました。

まずは、操作性。
明かりづくりでは、オペレーターはデザイナーの指示にしたがって何時間も明かりを作っていくため体力と持久力が必要です。

しかし、どの卓もタッチパネルでの操作のため、腕を上げっぱなしになります。腕の疲労が心配です。本番迎えるまでに疲れ切ってしまっては意味がありません。たとえマウスでの操作でも、マウスを使い続けるにはそれなりに広い操作場所が必要になります。また、小さい画面で小さなボタンを選択してクリックするというのはかなりストレスのたまる操作です。

それからGOボタンの位置。
オペレーターは明かり変化のキッカケを逃さないために、常にGOボタンに手をかけて構えています。調光卓の上の方にGOボタンがあると、他のフェーダーに触れてしまわないか、他のタッチスイッチをおしてしまわないかなど余計な心配をすることになってしまいます。このGOボタンの位置が楽な姿勢で押せるかどうかということは非常に重要な要素となります。

そして、大型のディスプレイ接続について。
先ほどの操作性にも関わってきますが、画面が小さいというのは非常に重要な操作性の一つです。くらげ的にはせめて23インチ以上のデュアルディスプレイが望ましいと思っています。
ましてや、カラーピッカーやカラーパレットなどの細かい表示が必要になってくると、薄暗い調光室で長の中で時間小さな画面を見続けるというのは老眼でなくてもきついのに、老眼のオペレーターにとっては地獄でしかありません。

東芝のTOLSTAR-III TypeFの場合、15インチのディスプレイとノートPCが付属しています。また外部ディスプレイに関してはHDMIで23インチの外部ディスプレイを接続することが可能です。タッチパネルにする場合はUSBでの接続ができます。
パナソニックのTESRAはすでにAndroidタブレットを外部ディスプレイとして使用しています。ただ、Android対応のタブレットしか対応できないため、外部ディスプレイの接続は不可能です。できるだけ大きいAndroidタブレットを購入するしか手段はなさそうです。

松村電機のF-CzはノートPCなので外部ディスプレイの接続は可能です。
丸茂のPRELUCE 2は、外部ディスプレイの接続を想定して端子自体は搭載されていますが、まだ対応はしていません。

こうした意見とメーカーの対応を見ていて、LEDの操作についてはしのぎを削って各社とも対応していますが、肝心の操作性については二の次にされている印象を感じました。
薄暗い調光室で何時間も操作するというオペレーターへの配慮が全くと言っていいほどなされていません。

調光卓にも、視線や人間工学に基いてデザインされた快適な操作性というものが必要ではないでしょうか。

それと、3段プリセットとサブフェーダーの操作性。
ホール催事や乗り打ち仕事の中には時間のない催事がけっこうあるため、3段プリセットはやはり外せません。開場直前にサブフェーダーに何パターンか明かりを作っておきつつさらに直前の変更なんてザラなので3段プリセットで対応することもままあります。LEDの操作性を考えつつ従来の操作性をどう残していくかというのも今後の課題になると思います。

仮設電源について

ここでは、仮設電源を使用するにあたって必要になる電気の知識について学んでいきます。
ここで出てきた知識は高校数学と第二種電気工事士免許を取得するときに学んだものですので、うちに眠っている参考書を片手に復習も兼ねてここで聴いたことをくらげなりにまとめてみました。

電力の種類と計算式

一口に電力と言っても、交流回路には3種類の電力があります。

  • 有効電力P[W]/熱や光として有効に働く電力
  • 無効電力Q[var]/熱や光として働かない無駄な電力
  • 皮相電力S[VA]/その回路の電圧と電力を掛け算したもの

この3つの電力はそれぞれ電圧降下のベクトルの向きが違うため、図で表わすと直角三角形のベクトル図が出来上がります。ベクトルとは、大きさと向きという2つの要素を矢印で表わす図のことを言います。有効電力が横方向、無効電力が縦方向でその2つの辺を結ぶのが皮相電力です。

皮相電力Sの計算式→S=電圧[V]×電流[I]
この計算式は必ず計算するものですね。
有効電力Pの計算式→P=電圧[V]×電流[I]×力率[cosθ]
ここで重要なのが力率です。力率とは、その回路で有効に熱として消費されている電力量のことをいいます。直角三角形の3片の三角比はsinθ(サイン・正弦)、tanθ(コサイン・余弦)、tanθ(タンジェント・正接)で定義しますが、この三角比のうちの[cosθ]を計算式に使用します。

力率cosθの計算式→cosθ=P/VI=P/√P2+Q2

仮設電源を発注するにあたって発注時に必要なのは皮相電力ですが、こういった計算式を覚えておくことで、使われる電力量を把握できるので安心材料にはなると思います。

配電方式と対地電圧

次に、電圧についてのお話です。電圧について知る上でまず知っておきたいことが、配電方式です。電力会社から供給されている電気を屋内で配線するにあたって重要なのが配電方式です。配電方式には、単相2線・単相3線・三相3線・三相4線などがあります。

一般の住居などは単相2線、単相3線方式が多く、工場などの動力電源を使用するところでは三相回路が多く見られます。
三相回路は単相交流の位相を120°ずつずらしたもので、変圧器の2次側(低圧側)のコイルの結線方式には三角形に結線するΔ(デルタ)結線(三相3線に使用)、2次側コイルを3本の星型に結線するY(ワイもしくはスター)結線(三相4線に使用)があります。

電圧と一口にいっても、一般的に使われている「100V」や「200V」という電圧は、線間電圧のことを指します。
対して、対地電圧というのも電気を扱う上で重要です。対地電圧は、電線と地面の間の電圧のことをいいます。
変圧器低圧側の中性点を接地線で大地と接地させることによって漏電が起きたときに低圧側に高い電圧の侵入を防ぐほか、人体が電路に接触した場合は人体から大地へ抜けて変圧器の接地に戻るため人身災害を防ぐことができます。

単相3線式は中性線を接地します。接地された中性線と両外線間(L1,L2)の電圧は105V、両外線間は210Vですので100Vと200Vが使用できますが、中性線が設置されているため対地電圧は105Vで150V以下となります。
三相方式の対地電圧は、Δ結線の場合はコイルの一端を接地します。対地電圧は200Vです。Y結線は中心にある中性点を接地します。200Vで使用した場合、200/√3=115Vになります。

電気設備技術基準の解釈第162条(屋内電路の対地電圧の制限)によると、

「白熱電灯(電気スタンド及び電気用品安全法の適用を受ける装飾用の電灯器具を除く。以下この条において同じ。)又は放電灯(放電管、放電灯用安定器及び放電管の点灯に必要な附属品並び管灯回路の配線をいい、電気スタンドその他これに類する放電灯器具を除く。以下同じ。)に電気を供給する屋内(電気使用場所の屋内の場所をいう。以下この章において同じ。)の電路(住宅の屋内電路を除く。)の対地電圧は、150V以下とすること。ただし、次の各号により白熱電灯又は放電灯を施設する場合は、300V以下とすることができる。(省令第56条、第59条関連)
出典:電気設備の技術基準の解釈

よって、Δ結線を照明機材への電源供給に使用することはできません。200Vの照明機材を使用しないとならない場合、単相3線方式を使用したりY結線の変圧器を使用して150V以下にするといった措置をとっているところもあるようです。

照明機材の電力計算について

参加者からの質問です。

仮設電源を借りる際に伝える機材の総電源容量は機材に表記されているものを計算すればいいのか、クランプメーターで計測した実測値を伝えればいいのか。
これについては、きっちり計測した電源容量でなくとも、皮相電力ないしは有効電力での電源容量を伝えてもらえれば対応が可能です。

Y結線でモーターは回るのか

Y結線でモーターは回るのかということについて。
屋外などでチェーンモーターなどのモーター系電源を供給する場合はY結線の線間電圧200Vで供給しますので、モーターは問題なく回ります。ただし、モーター系は回転ノイズが発生することが多いため、ノイズの原因となる高調波電流をΔ結線内で循環電流として回すことでノイズを外部に出さないようにしていますので、ノイズを気にするのであればΔ結線のほうをおすすめします。また、商用電源であれば8割から9割をΔ結線で供給しています。

各相の呼び方について

電源の各相についてはR,S,TもしくはL1,L2,L3またはU,V,Wと表記をするけど、これは一体何なのか。
諸説ありますが、二次側はR,S,TもしくはL1,L2,L3と表記するようになっています。また変圧器などに関してはU,V,Wという表記が多く、一次側を大文字、二次側を小文字で表記しています。

照明家を取り巻く労働環境と働き方改革

この回では、パネラーともに照明家を取り巻く労働環境と現在政府が掲げている働き方改革について学んでいきます。働き方改革とは、安倍総理が中心となって誰もが活躍できる「一億総活躍社会」を目指して推進している指針です。
少子高齢化が進む中で、働き方を改革することによって働く環境を改善し労働人口を増やすことが目的になっています。

働き方改革の中で主たるものとしては、「長時間労働の規制」「柔軟な働き方がしやすい環境整備」「賃金引上げと労働生産性向上」「正規雇用と非正規雇用の格差是正」などが挙げられます。
この働き方改革で掲げられている内容が、舞台照明業界においてどう影響してくるのかを各会社の現状を聞きながら探っていきます。パネラーは、日本照明家協会の監事を勤められている梅本氏、東京舞台照明の岡山氏、ライティングビッグワンの清水氏、共立の吉沢氏、宝塚舞台の八木氏、パシフィックアートセンターの深井氏です。

舞台照明家の職業分類について

まず、舞台照明家はどう職業を名乗るか。くらげの場合は会社に所属していたときは会社員と名乗っていましたが、フリーランスとなった今は個人事業主と言っています。
そして正式な職業分類について。総務省の職業分類では、大分類が生産関連従事者となり、その中で生産類似作業従事者の中の演出家の項目に含まれています。

なお、厚生労働省の分類では専門的・技術的職業の中の音楽家、舞台芸術家の項目内にプロデューサー、演出家とあり、その中に舞台照明家という職業が表記されています。

社員とフリーランスの仕事

まず、フリーランスに仕事を発注した際の契約について。1ヶ月間で数多くの現場を回すことの多い会社では社員だけでは回らないため協力会社やフリーランサーに仕事を依頼しています。4社ともにフリーランスや協力会社へ仕事を発注しており、必ず契約書を交わしています。
また、企業イベントなどは作業員名簿の提出を求められるため、必ず氏名とともに国民年金と厚生年金番号を記載することが必須となっています。

以前と比べるとだいぶ面倒にはなってきているのですが、こういう業界では何か事故があったときに調査が入ることが多いため、企業側はリスクヘッジのために契約の取り交わしなどを行っているようです。

舞台照明と同一労働同一賃金

働き方改革の内容に、同一企業や団体での正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の解消を目指す「同一労働同一賃金」というものがあります。
この「同一労働同一賃金」が舞台照明業界ではどう反映されるのかについて議論が行われました。

社員は現場仕事だけでなく会社に帰れば荷出しや荷降ろし作業があり、また立場によっては新入社員への教育を行っている社員もいます。
そういった仕事も含めるとフリーランスと社員では同一労働にはならないのではないかという意見があったのですが、同じ仕事をしていて社員とフリーランスで不合理な差を付けてはいけないという趣旨なのでこの場合は同じ現場でというのが当てはまるとのことでした。

個人におけるデザイナーとオペレーターの線引き

働き方改革の中で、テレワークという働き方を推進している項目があります。テレワークとは、パソコンなどITを活用した時間や場所にとらわれない柔軟な働き方のことをいいます。
今後、テレワークが制度化された場合、デザインなどを家に持ち帰って労働時間として申請する可能性も出てきます。

会社に所属しているデザイナーが会社の仕事としてデザインする場合は労働ですが、個人事業主などのフリーのデザイナーがデザインする場合は請負契約または業務委託契約という括りになります。
お金の面から見ると、労働というのは時間を拘束されて出した成果が給料となります。業務委託契約もしくは請負契約に関しては、結果を出して受け取る対価となります。

しかし、照明家というのはデザイナーのときもあればオペレーターになるときもあるという二面性を持っている職業です。その場合はどこから線引きするべきなのかという問題があります。
会社との契約を雇用契約と業務委託契約を二重で契約するというのはどうかという意見が出ましたが、労働には時間という要素があるため時間給で働く部分と結果を出すために動く部分との切り分けが難しいようです。

時間労働による対価という仕組みはもともと工場労働者の保護を目的とした工場法から始まっており、その基本的な8時間労働というところは現代の労働法に至るまで変わっていません。
そのため現代では全体の約75%を占めている第三次産業にはそぐわないものになってきていることが今問題となっている状態です。

増えていくデータのプログラミング時間

今、各照明会社の間で時間管理している中で一番問題になっているのが、調光卓にデータをプログラミングしていく作業の時間です。この作業だけで残業時間の80時間制限を超えるほど掛かっています。
場合によっては徹夜で打ち込んでそのまま現場に向かい、現場でもまた打ち込んでいるということもある状態です。

ただ、この問題はクライアント側にも原因があるのも事実です。コンサートでも事前にセットリストがもらえずその曲を演奏するのかがわからないため、あらかじめ全曲をプログラミングしておく必要があったりなど照明側で対処できない部分も出てきます。

労働時間の規制が強化されたとしても、例えば24時間勤務が発生した際に3交代にするために3人分の金額がいただいたり、1人のオペレーターが3日間連続で働かないようにするために3人分の人件費をいただくというのは現実的に難しい問題です。
1日のタイムスケジュールにおいても、照明だけでなく音響や舞台など他の部署も関わってくるため、照明だけの都合で時間を決められるわけではありません。

そういったところからも、就労時間の問題を照明会社の企業努力だけで解決するのはかなり難しいところです。

第3部で感じたこと

今回パネラーとして参加した4社ともに、商業的なイベントや企業イベント、多数の民間や公共ホールの管理など様々な業務を請け負っている大企業であることもあって、法令を遵守している会社ばかりです。
しかし、この業界には法令を遵守している健全な会社だけでなく、フリーランスへの支払い金額が相場よりも低く抑えられていたり社員の労働時間の管理どころか残業代や深夜早朝手当すら支払われないといった闇も存在していることも事実です。

そういった実態を置き去りにしたまま働き方改革について討論したところで、闇は闇のまま放置されるのがオチなのではないかと思っています。まずは、そういった闇の部分についても対処していってほしいと思っている社員の方も多くいるのではないでしょうか。

締めくくり

今回の全国舞台照明技術者会議はいろいろと考えさせられる内容でした。また、仮設電源に関しては電工で学んだことがすっかり忘却の彼方に飛んでいたので勉強し直すいい機会になりました。
最後に、日本照明家協会についてのお話がありました。正会員数は現在2,838名でそのうち20代は138名と少子化に伴いかなり減少しているのだそうです。

この今回上げた声を高めていくためにも会員数を増やしていきたいとのことでしたが、かつて正会員の紹介でしか入れない制度があったときは照明会社に所属していたりデザイナーに師事しているいわば「純血種」だけを求めているように感じていました。それは未だに感じることがありますし、この会議でも内輪感を多少なりとも感じました。

今は舞台照明に携わっている人はプロだけでなくアマチュアや大学・高校演劇、劇団など多様化しているので、照明家協会の存在すら知らない人や知っていても何をしているのかわからない人も多いのではないかと思います。

また、日本照明家協会の動向は賛助会員の会社や団体でなおかつ積極的に参加している協会側の会社じゃないとわからないため、その他大多数の照明に携わっている人たちに呼びかけるのは難しいのが現状だと思います。くらげ自身もこの舞台照明技術者会議の開催についてはたまたまブログへの書き込みがあったから知りました。

いつまでもただ座って待っているだけじゃ協会員は増えないので、もっと積極的にネットやSNSを使って情報を拡散させないとその他大多数の舞台照明に携わっている人たちには伝わらないと思っています。もちろんスマホで見られないと意味がないですけど。
それと、年度末で催事が詰まっている3月半ばに開催する時点で、ホールや劇場関係者はまず参加は難しいのではないかと思います。

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