クセノンピンスポットを操作するための取扱説明書1【基本編】

コンサートやお芝居で使われているピンスポットライトは、照明演出の中でかなり重要なポジションを占めています。
このピンスポットライトは人の手で操作しているため、操作には技術と知識が必要になります。

この記事では、クセノンピンスポットライトを操作することに慣れていない人のための操作方法についてご紹介します。

クセノンピンスポットライトってどんなもの?

まずはおさらい。クセノンピンスポットについて説明いたします。
クセノンピンスポットライトは、その名の通りクセノンランプが使用されているスポットライトです。キセノンランプは高圧のキセノンガスを封入している高輝度・点光源の電球で、人工光源の中ではもっとも太陽光に近い光を出します。

ピンスポットライトの種類は使用電力量によって6つに分かれています。最小のものは500Wと700Wで、小型の四角い形をしている軽量タイプのものです。講堂や公民館、小ホール、ライブハウスや小劇場など客席数が少ない小規模施設に置いてあることが多いです。

1,000W、2,000W、3,000Wがよくある丸い形のものです。文化会館、公会堂、劇場などの客席数が数百名から千名規模のホールには、1,000Wか2,000Wが置いてあります。この2つのタイプは、近年フルモデルチェンジされ、軽量・コンパクト化、高照度化、冷却機能が向上された他、ボディが黒い色になっています。

3,000Wはアリーナやドーム、野外ライブなどの遠距離用に開発されたピンスポットライトです。1,000W、2,000Wに比べて灯体の大きさも相当大きくなっています。

各部の名称

ウシオライティングのクセノンフォロースポットライト SUPERSOL XPS-1004SR/eの取説を元に操作上必要な部分だけを抽出した、各部の名称です。

1 アイリスシャッタ
照射円の大きさを変える
2 カッター
上下に閉まり光をカットする
3 ドウサカッター
ダウザーとも言う。光の明るさを調整する
4 ソフトフォーカス(オプション)
ソフトな光にする
5 受電表示ランプ
整流器が受電していることを確認する
6 点灯押釦スイッチ
ランプを点灯させるボタンスイッチ
7 本体電源スイッチ
本体の電源スイッチ
8 アワーメーター
トータルの点灯時間を表示する
9 操作用取っ手 10 焦点調整ハンドル
照射円のピントを合わせる
11 バランスウェイト調整つまみ
灯体のバランスを調整する
12 アクリル表示板
ズームハンドルの位置に目印を付けるところ
13 ズームハンドル
照射円の大きさを調整する
14 ズーム調整つまみ
ズームを調整したときに照射円のピントを合わせる
15 カラーチェンジャ固定ビス 16 カラーチェンジャ取付枠
17 本体上下固定ハンドル 18 本体左右固定ハンドル
19 パイプ固定ハンドル 20 スタンド固定つまみ

14のズーム調整つまみと19のパイプ固定ハンドルは必ず管理者に確認を取ってから動かしてください。

ピンチェック時に調整すること

照明のシュート作業が終わったあと、ピンスポットのオペレーターはピンルームに上がってピンチェックをします。ピンチェックは、ピンを点灯してるだけでなく、ピンスポットの各部調整と快適な操作をするための操作周りの調整です。

ピンスポットの使用はホールによっては午前中・午後・夜間のどの区分から使うかで付帯料金が変わってきます。ピンチェックだけなら発生しないというホールや、区分料金のないホールもありますので事前にホール管理者に確認してから使用するようにしましょう。

またピンスポットライトが設置してある場所は行き方が複雑なところが多いので、道順を聞いておきましょう。3段くらいの小さな階段があった、トイレの横の扉を開けるなど途中でわかりやすい目印を見つけておくと迷いません。
ホールや劇場によっては防災管理上によりピンルーム後方に灯体を寄せてワイヤーなどで固定しているところがあります。その場合はワイヤーを外し、スタンド固定つまみを緩めて灯体を操作できる位置まで移動させます。移動させるときは不安定にならないようにしっかりとスタンドから動かしましょう。

また、ホールや劇場によってはピン本体へのガムテープの使用を禁止しているところもあります。ガムテープは照準の固定や目印などで多く利用されますが、剥がすときに灯体の塗装を持っていってしまうことがあります。ガムテープを貼る場所はどのオペレーターもだいたい同じような場所なので、貼ったり剥がしたりしているうちに塗装が剥がれやすくなっているのです。

ガムテープの使用を禁止をしていないホールや劇場でも、使用するときに一言聞いてもらえると、ホール管理側も灯体を大切に使ってくれるんだなと安心します。

ピンの点灯

ピンの点灯はホールや劇場によって多少変わりますが、だいたいは同じ方法で点灯します。

  1. 整流器のブレーカーをONにします。
  2. 本体電源スイッチのスナップスイッチもしくは片切スイッチをONにします。(2つある場合は2つともON)
  3. 点灯ボタンを押します。
  4. 窓ガラスからランプハウスを確認し点灯していなければ再度点灯スイッチを押します。


ピンルームに整流器がないところでは、ユニット室に整流器が設置してあります。スイッチ部分にある受電ランプを確認し点灯していなければ、ホール管理者に確認しましょう。

ランプが点灯したかどうかはランプハウスに付いている小窓を除けばわかります。慣れてくると音でも判断できます。ボタンを押しているときは「チチチチ」、点灯すると「パッ」という音がします。年季の入ったピンスポットライトだと稀に点灯しにくいこともあるので、点灯するまで長押ししてみてください。

椅子と操作範囲の調整

ピンスポットライトを操作しているときの体勢はだいたいこんな感じです。そのままの状態では操作しにくいので、操作しやすいように椅子などの調整を行います。

ピンスポットは快適に操作できる環境を作ることが大切です。ピンスポットは灯体の横で椅子に座った状態で操作しますので、自転車のサドルや車の運転席のシートを自分の体に合わせるように、操作に使う椅子周りも自分に合った仕様に調整する必要があります。椅子はホールによって変わりますが、キャスター椅子やパイプ椅子がほとんどです。

キャスター椅子の利点は高さが調整できるということです。ホールや劇場のピンルームによってはピンスポットの高さを上げているところもあります。キャスター椅子であればピンスポットが操作しやすい高さまで椅子を上げることができます。

パイプ椅子などの高さ調整ができない椅子の場合は、ホールや劇場から箱馬を借りて高さを調整します。このとき、箱馬から操作中に落ちてしまうことのないようにテープなどでしっかり固定しましょう。

理想の高さは操作レバーを楽な姿勢で開けきれて無理のない姿勢で照準で狙うことができる高さです。時間があれば妥協せずに調整しましょう。
また、足台用の箱馬も用意しておきます。足を上げておくと、太ももで操作中の腕を支えることもできるので腕が疲れません。

照準の調整

点灯したら、照準の調整を行います。カッターダウザーを開けてアイリスシャッターを一番小さいサイズに絞り、この状態で照準を合わせます。
照準は本番中に外れないようにしっかりと固定しましょう。

ズームとエッジの調整

アイリスシャッターを全開にしたときの照射円の大きさを調整するのはズームハンドルを使用します。ズームハンドルを手前に回して緩め、ズームハンドルを前後に移動させることで調整できます。
ピンを2本以上使用するときは、ズームハンドルの位置をそれぞれ同じ位置に調整します。

まずアイリスシャッター、カッターを全開にします。ダウザー全開でいきなり舞台上に出すと舞台上で作業している人がびっくりしますので、ダウザーは作業のじゃまにならない程度の明るさに開きます。
ズームハンドルの位置を各ピンで同じ場所に設定し、舞台側に回して締めます。

ズームハンドルを同じ位置に設定しておくことで、全開にしたときに照射円がバラバラになることを防ぎます。もし大人数をフォローすることを想定しているのであれば、大きめにしておくことが望ましいです。
ホール・劇場によっては推奨位置にテープなどで目印を付けていることもありますので、その位置に合わせておくといいでしょう。

エッジの調整は焦点調整ハンドルを使用します。本来は照射円のピントのずれを調整するものですが、この焦点調整ハンドルを使用することで照射円をぼかしたりシャープエッジにすることができます。
焦点調整ハンドルを回し、ちょうどいいボケ具合に調整します。途中でシャープエッジにする必要があるときは、ボケを調整した位置とシャープエッジの位置にテープで目印を付けておきます。

ただ、前述の通り本来の使用目的とは違った用途で使用しているため、きれいにボケるわけではありません。理想のボケ具合にしたいときはディフュージョンフィルターを使用してください。

バランスの調整

ピンルームに上がったら、まずは自分が操作しやすいように調整します。スタンドの本体左右固定ハンドルを一度緩めてから軽く締めます。理想の硬さは指で動かしても動きすぎず軽く左右に振れるくらいです。
灯体の本体固定上下ハンドルを緩めてから理想のバランスに調整します。この調整をするだけで操作が非常に楽になります。

バランスの調整は鉄ハンガーや使っていないシート枠などの小物も使えます。

灯体の上下の動きが思うように調整できないときは、紙や小銭を挟み込みます。撤収時に回収するのを忘れずに。


照射サイズの調整

一人分の全身サイズ、上半身サイズ、二人分全身サイズなどの照射するサイズを実際に出してみて合わせたら、ガムテでアイリスシャッターのところにわかりやすい目印を付けておきます。
この部分にフェルトが貼ってあると、剥がすときに一緒に剥がれてしまいますので避けましょう。

操作しないとき

操作してから時間の空くときはアイリスシャッターの焼損を防ぐためにカッターを閉じておきます
リハーサルまで時間があるときや開場中のとき、直しや休憩でなどピンから離れるときにはランプの消耗を防ぐために本体電源を落とします

操作終了時

以下の手順で操作を行います。

  1. ダウザー、カッター、シャッターはすべて閉める。
  2. 本体電源スイッチをOFFにする。
  3. 貼った目印などはすべて剥がす。
  4. 元にあった場所に戻して原状復帰

キセノンランプは冷却ファンを回してクーリングさせる必要があり、本体の電源を切ると自動的に冷却ファンが作動します。最低でも5分間は整流器の電源を落とさず冷却ファンを回してください
このキセノンランプは一つで十数万円もする非常に高価な電球です。扱い方を間違えると十数万円以上もの損害をホールに与えることになりますので、十分に留意しておいてください。

最新型のピンスポットと松村電機製作所製のサンビームは整流器にファンタイマーが付いているため5分経つと自動的に冷却ファンが停止します。冷却ファンが停止したら整流器を落とします。バラシが終わったあとに戻ってきて落とすようにすると確実です。

締めくくり

これで、ピンスポットライトの基本的な説明はおしまいです。ホールや劇場によってピンのある環境は変わりますが、基本はほぼ一緒なので以上のことを覚えておくと間違いありません。

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