初心者のための照明仕込み図の描き方

照明仕込み図は、照明プランのための設計図です。台本や曲目に合わせて照明プランが決まったら、機材を吊る場所、使う機材、どの機材とどの機材を同じフェーダーで使うのか、どの機材に何のカラーフィルター(ゼラ)を入れるのかなどを決めて落とし込んでいきます。

仕込み図の基本的な描き方については、照明機材の盛り合わせ(@lightingkizai)さんがすでに書かれていますので、ご参照ください。

参考 照明仕込み図の描き方照明機材の盛り合わせ ここでは上記の記事に補足する形でホールや劇場で初めて公演するときにどうやって仕込み図を描けばいいのか、また書いてから当日までの手順もあわせて書いていきます。

ホール資料一式をもらう

照明仕込み図を描く上でまず必要なのが、使用するホールや劇場の資料です。
ホールや劇場には、サスバトンに常時吊られている機材やサスバトンの回路が書いてある基本仕込み図があります。この基本仕込み図を元にして、仕込み図を描いていきます。

また、照明機材表には予備機材の種類と台数、ケーブルやハンガーの種類と数が記載されていますので、サスバトンに吊っていない機材は予備機材を使います。

サスバトンや美術バトンなどのバトン類、緞帳・袖幕・大黒幕・ホリゾント幕などの幕類などの位置が記載されている図面が舞台平面図です。この舞台図面は、舞台上の装置を置く場所や役者の立ち位置とサスの位置関係を知る重要な手がかりになります。
各バトンの高さや前明かりの高さを知るには、舞台断面図が必要です。その名の通り舞台を横から見た図面です。

これらの資料を含む資料一式を、電話やメールでホールや劇場にお問い合わせをして送付してもらいます。
そのときに、作成した仕込み図の送り先と照明担当者名も聞いておきましょう。ホールや劇場へ作成した仕込み図を送付するときは、多くのホールや劇場がFAXや代表メール宛になりますが、ホールや劇場によっては照明担当者のメールアドレスを教えてもらうことができます。

図面を見ただけではわからない場合は下見をしましょう。ホールや劇場に問い合わせをして、下見の予約をします。間違っても、予約なしでいきなり押しかけて「今からホールの中を見せてほしい」とお願いしてはいけません。
下見のときに、気になったことは遠慮せずに質問しておきましょう。正直に経験が少ないことを伝えておけば、たいがいの担当者は優しく教えてくれます。

仕込み図を描く

照明仕込み図は自分たちが仕込みのときに読むだけでなく、使用するホールや劇場の方にも必要な資料です。
ホールや劇場の管理人は貸し出す機材を何台使ってどんな機材を持ち込み、どの場所に吊るのか、どこに置くのか、記載されている台数は合っているのかなどを確認する必要があります。

ですので、自分たちだけがわかる描き方ではなく、共通認識として使われている記号や情報を記載することが必要です。

何を使って書くか

仕込み図を書くための手段は、手書きでもパソコンでも構いません。ただし、仕込み図は、最初に述べたとおり照明の設計図です。
この設計図をもとに仕込んでいくので、機材の吊り位置や配線、使う機材の種類と数などが正確に描かれている必要があります。誰が見てもわかりやすいという必要最低限のラインは必ず守りましょう。
手書きで作成する場合は、日本照明家協会で1/50と1/100のテンプレートセットが販売されています。このテンプレートを使用すればスポットライトや効果器などの記号を描くことができます。

公益社団法人 日本照明家協会|日本照明家協会出版物
パソコンを使用する場合は、エクセルやパワーポイントなどの図面に関係ないソフトでも作成可能です。あらかじめ、InkscapeやLibreOffice Drawなどのフリードローソフトで記号を作成しておくと手間がかかりません。
また、フリーのCADソフトもありますので試してみてください。

印刷する用紙サイズ

印刷はA4サイズだと小さすぎて見にくいので、B4もしくはA3サイズをおすすめします。ただし、作成した図面をホール・劇場にファックス送信するときはB3およびA3サイズの用紙をセットしていないこともあるのでA4サイズにしておきましょう。
掲載した仕込み図はB4で描いています。文字や記号が見やすくて持ち歩くのに邪魔にならないサイズです。

縮尺

仕込み図は照明の設計図であると述べたとおり、記載してあるとおりに仕込めないと意味がなくなります。ホールや劇場からいただいた平面図を元に描いていきますが、ホールや劇場の平面図はほとんどが100分の1サイズで描かれています。そのとおりに描くと文字や記号が小さくなってしまって読めないことがあるので、50分の1から70分の1に拡大するか、用紙サイズに合わせます。

縮尺はCADソフトを使えば自動で設定したサイズにできます。使いこなすまでが難しいという欠点がありますが、慣れてしまえば便利です。

書き方の一例

仕込み図とはどういうものなのかを述べるうえで、「劇団鯖の水煮」という劇団が、本鰆市文化会館大ホールで「第二回公演 『虹色クジラは空を飛ぶ』」を上演するという設定で書いてみました。なお、劇団名から作品名、ホール名まですべて架空の設定です。
使っているアプリケーションソフトは、Adobe IllusuratorCC 2017です。用紙サイズはB4サイズを選択。縮尺は20分の1にしています。Adobe Illustratorには縮尺プラグインがありますが現在は未使用のため、すべて計算した上で書きました。

こちらは自分で作ったシンボルマークを使用しています。(クリックで拡大)

こういった昔から慣用的に使われている記号でも問題ありません。(クリックで拡大)

舞台上の縦横に引いてある点線の間隔は1間(1.818メートル)です。1kWのスポットライトはフレネル、凸ともに平均横幅28~35センチメートル、PAR64は横幅26~30.5センチメートル、ソースフォーは横幅31センチメートル前後のサイズなので、灯体の向きを変えるときの余裕も考えると多くても1間の中に3~4台程度が妥当です。
今回はフロアに仕込む機材はSSしかないので1枚にまとめてしまいましたが、フロアに仕込む機材が多いときは別にフロア分の仕込み図も作っておくと図面がごちゃごちゃになりません。

今回は説明の都合上、ホール卓で持ち込みのLED PARを操作するようにしていますが、制御チャンネル数が多いこととできることが限られてしまうため、実際は持ち込み操作卓での操作を推奨しています。

仕込み図への記載事項

仕込み図に記載しておく事項は以下のとおりです。(クリックで拡大)

① コンモ線

各機材をつないでいる線は同じフェーダーに入れるという意味で、コンモ線といいます。最終的に調光卓で同じフェーダーにパッチをするので、同じ回路番号でなくてはいけないという意味ではありません。
コンモ線には縦線と横線の交差する位置に黒い丸を付けておくとどの機材とどの機材がコンモなのか判別がしやすいです。また、単独回路の機材に関しては曲線にすることで見やすくしました。

② ディマー(負荷回路)回路番号・チャンネル(フェーダー)番号

ディマー番号はあらかじめ決めておいて仕込み図に記載をしておくと、仕込むときの手間や時間を減らすことができます。
チャンネル番号はチャンネル表を別途作成するので必ずしも記載しないといけないわけではありません。しかし、仕込み図に記載しておくと俯瞰でどの機材とどの機材が同じチャンネル番号かパッチのときに把握できるので、プランナー以外の方がパッチするときにパッチがしやすくなります。
上記のブログ記事にある通りUSITT規定の書き方があるため、今回の仕込み図ではUSITT規定に沿って丸がディマー番号、六角形がチャンネル番号で記載しています。ただし、現状では丸と六角形が逆の表記だったり、四角だったり下線だったりと各自で設定した書き方をしている照明プランナーさんが多数ですので、仕込む側が理解できていればいいのではないでしょうか。

③  DMX番号

ムービングライトやLED PARなどのDMXアドレス番号を記載しておきます。あらかじめアドレスを設定しておく場合は、機材にテープを張ってアドレスを書いておくと仕込むときに手間取りません。

④ サスの回路使用数

サス回路の数に対して使用数を記載します。記載することで、サスの回路が足りているのかがわかります。足りなくてフロア回路から立ち上げるときや美術バトンに吊る場合はフロア回路から取ります。その際は、出演者の動線などを考えて上手と下手のどちらにケーブルを立ち降ろすのかを記載しておきます。

⑤ 使用するホール・劇場機材の種類と台数

仕込み図の空いているところに、使用するホール機材の種類と台数を凡例とともに記載します。これは、ホールや劇場側でチェックするときに何の機材を使うのか、台数は足りているのかを把握するためです。
プランナーとしても数量を計算することで、機材の数が足りているのかを確認することができます。

なお、前明かりの機材は常設のまま使うことが多いため、台数に入れることはほとんどありません。

⑥ 持ち込み機材の種類と台数・総容量

使用するホール・劇場機材のすぐ近くに持ち込み機材の種類・台数・総容量を記載します。持ち込み機材の総容量を記載しておくのは、ホールや劇場によっては持ち込み機材の電源料が発生することがあるからです。

⑦ 特記事項

仕込み時などに注意しておかないといけないことなど特記事項を記載しておくと、自分以外で仕込みに関わる人にも伝わりますので記載しておきます。

⑧ 公演タイトル・日時・プランナー及びオペレーターの氏名

これらを書いておくのはお約束です。照明仕込み図だけを送ってこられても、ホール・劇場側では何の仕込み図なのかわかりません。

印刷して確認

仕込み図は何度か印刷をしてみて見やすさを確認しましょう。
画面上では見やすいと感じてみても、実際に印刷してみると字が小さくて見づらいことがあります。また、印刷することで書き間違いを発見することもあります。

チャンネル(フェーダー)表の作成

仕込み図が完成したら、同時にチャンネル表も作成しておきます。チャンネル表は、どのチャンネルにどのディマーをパッチするかを表にしたものです。この表を事前に作っておくことでスムーズにパッチを行うことができます。エクセルでテンプレートを作っておくと手間が省けます。

こちらが今回の仕込み図のチャンネル表です。人によって多少変わりますが、だいたいがこんな感じで作られています。

チャンネルの並び方は人によって変わりますが、大まかな決まりごととして舞台奥から記入していくという決まりがあります。なので、アッパーホリから始まり、ローホリ、サス、フロア周り、前明かりという順番になっています。
サスは人によって3サス、2サス、1サスという順番で書く方もいますが、わたしは1サス、2サス、3サスという順番にしています。

表示に関しては自分のわかりやすい名前で構いません。

ホールや劇場の担当者と電話打ち合わせ

仕込み図が完成したら、ホールや劇場に仕込み図を送ります。
FAXやメールでの文面はこのように書いています。今回は変更事項が多くて仕込み図の送付が仕込み日の1週間前を切ってしまったので、「遅くなりましたが」と書き添えています。
FAXの送信状はネットからMicrosoft Wordで作成された書式をダウンロードしました。こちらからお好みのものをダウンロードしてお使いください。WordがなくてもGoogleドキュメントで作成可能です。

ホールや劇場のFAX及びメールに送信したのちに、ホールや劇場に電話をして担当者と打ち合わせをします。

打ち合わせの内容は、以下の通り。

  1. 送った仕込み図が届いているか
  2. 仕込み図に問題はないか
  3. シート枠やソースフォーのゴボフォルダーを借りる場合はこの時点で伝えておく
  4. 搬入車両の有無
  5. 卓を持ち込むときは設置する場所について
  6. 当日の入り時間

以上で、当日までのホールや劇場とのやり取りはおしまいです。

締めくくり

初心者のための仕込み図の描き方はいかがでしたでしょうか。ここに載せた事例はあくまでの一例です。

この記事を読んで実際に描いてみても最初のうちは難しいと感じるかもしれませんが、描いていくうちに覚えていきます。ホールや劇場で公演をする機会が少なくても、ホールや劇場のサイトで基本仕込み図や舞台平面図をダウンロードできますから、公演を想定して描いてみるのもいいかもしれません。
まずは描いてみることが仕込み図に慣れるための第一歩です。

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