前回、初心者のための照明仕込み図の描き方について書きましたが、続いて公演当日の搬入から搬出までの段取りや、一般的なホール・劇場の現場で行われているお作法について説明していきます。
今回も仕込み図の描き方のときと同様に、劇団鯖の水煮第二回公演を本鰆市文化会館大ホールで上演するという設定の元で話を進めていきます。
公演スケジュール
公演スケジュールは、2018年9月25日が仕込み、26日から28日までが本番日です。タイムスケジュールはあらかじめ舞台監督が作成し、文化会館にも送付済みとなっています。
今回は会場を4日間押さえられたということもあって、かなり余裕を持ったスケジュールで組んでいます。これが2日間、3日間となるとそれぞれの時間がもっと凝縮されてきます。
前日までの準備
前日までにできることはできる限りやってしまいましょう。当日やろうとすると、思っている以上に激しい勢いで使える時間が減っていきます。
必要な資料の印刷
照明仕込み図、キューシートは人数分+余分に印刷をしておきます。
必要なゼラを場所ごとに準備
仕込み図を見ながら、各サス、各前明かり、各フロア周りごとにゼラを用意します。シート枠があればあらかじめゼラを入れておき、場所ごとにまとめて大きなゴムで束ねてどこに入れるか書いた紙を挟んでおきます。
シート枠をホールで借りる場合は、クリアファイルにそれぞれ1サス、2サスと場所ごとに分けて、テープなどで入れる場所の名前を書いておきます。
DMX機器のアドレスを設定
LED PARなどDMX機器を使用する場合はあらかじめアドレスを設定し、機材にアドレスを書いたテープを貼っておきます。
持ち込み機材リスト
ホールに持ち込む機材やケーブル類はすべて機材名と数量をリスト化しておきます。描いた紙は機材やケーブルを入れるザルや箱に貼っておきましょう。
仕込みに必要な工具類
仕込み時に、最低限あったほうがいいのは以下の通り。
- +と-のドライバー
- 黒と白のビニールテープ
- 革手袋
- 赤マッキー(細)と黒マッキー(細)
- マグネットクリップとペンホルダー
- プライヤーもしくはペンチ
- ヘッドライトかネックライト
- カッター
プラスとマイナスドライバーは簡単な修理をしたり、ソースフォーのレンズチューブを交換したりするのに必要です。
黒と白のビニールテープは、美術バトンのケーブルを固定したり、印を付けたりと何かと役に立ちます。
革手袋は手の保護やグリップ力を高めるために必要です。ホームセンターで手に入ります。軍手はサイズが大きくて滑るのでおすすめしません。豚皮は安いのですが破れやすく、独特の匂いがします。牛革は少し高めで、結構頑丈です。
豚革、牛革の場合は手首で固定できるマジックテープがあると便利です。
合成繊維は手にしっかりとフィットして蝶ネジを締めたりするときにグリップ力を効かせられます。いろいろ使ってみて、自分が使いやすいものを選んでみてください。
赤マッキー(細)と黒マッキー(細)は仕込み図に打ち合わせ内容や回路番号を控えたり、白ビニテに書き込んだりするのに使います。キャップレスの押し出すタイプだとキャップをなくしません。
マグネットクリップとペンホルダーは仕込み図とペンを持ち歩くのに使います。ペンホルダーもあればさらに便利です。サスを仕込むときは、マグネットクリップを外してダクトに付けて仕込み図を見ながら仕込みます。
プライヤーは硬い蝶ネジを緩めたりするのに使います。ペンチより軽い上に大きく開くのでいろいろな用途に使えます。
ヘッドライトかネックライトは暗い場所で手元や足元を照らします。暗い場所での作業が多いので、必須アイテムです。
カッターはカラーフィルターを切ったり、テープを切ったりといたるところで活躍します。
搬入
搬入口までのルートと搬入口はあらかじめ確認しておきましょう。搬入口のある場所が一方通行だったり、住宅街の入り組んだところにあったり、地下駐車場の隅っこにひっそりあったりして見つけられず、ホールのすぐ近くに来ているのに搬入口までなかなかたどり着けないということはよく起こることです。
また、搬入車両に車両許可証が必要な場合は忘れずに見える位置に置いておきましょう。
搬入口の扉は基本的にホール・劇場スタッフが開けます。ホール・劇場によっては利用時間の10分前から搬入口を開けてくれるホールもありますが、きっちり利用時間に開けるホール・劇場や、ホール利用証を提出してから搬入可能になるホール・劇場もあります。
時間を1分1秒でも無駄にしないために、ホール利用証をホール受付に提出してから搬入可能になるホールでは必ず利用証を持った人が利用時間と同時に搬入できるようにホール受付前で待機していましょう。
ホール・劇場に入館したら、まずはホール・劇場スタッフにあいさつをしましょう。機材を搬入したら、仕込みの邪魔にならない場所にまとめて置いておきます。扉や動線、防火扉の位置にも注意しましょう。
また、ホール・劇場の台車を借りたときは、必ず元の位置に戻しておきましょう。
仕込み前の確認作業
ホール・劇場管理者との打ち合わせ
仕込みを開始する前に、照明チーフは照明担当者に改めて照明仕込み図を渡し、打ち合わせをします。
打ち合わせしておく内容は、以下の通りです。
- FAX送信時と違っていれば変更点を伝える。
- 仕込み時の注意事項を確認
- 倉庫や予備機材の位置を確認
- シート枠を借用する場合はこのときに借りる
この打ち合わせをしている間に、仕込み要員たちはサスに使うゼラを出す、持込みの機材を出してハンガーを装着しておく、吊り込むホール・劇場機材などを倉庫から出してハンガーを装着しておくなどの準備をしておきます。
仕込み要員との打ち合わせ
ホール・劇場スタッフとの打ち合わせを終えたら、仕込み要員との打ち合わせです。今回は5人で仕込みます。
照明チームでの打ち合わせは、仕込みの内容を確認するだけでなく先ほどホール・劇場管理者と打ち合わせをした内容を伝えます。
ここで共通認識を共有することで、認識のズレによる仕込み間違いなどを防ぐことができます。一刻も早く仕込みたい気持ちを抑えて、入念に打ち合わせをしておきましょう。
今回の仕込み図はこちら。サスは1〜3サスまであります。それに美術バトンを1本使い、照明機材を仮設します。今回のセットはシンプルなので舞台平面図は省略しますが、舞台奥に8間間口、2尺8寸高の台を組みます。
仕込み開始
この本鰆市文化会館の吊り物昇降装置は、サスバトン、美術バトンともにすべて電動です。電動の場合は舞台袖でホール・劇場スタッフが吊り物装置昇降操作盤で操作をおこないます。
舞台の床にリノリウムや地がすり、パンチカーペットなどの敷物がある場合は、どちらが優先か同時並行で仕込むのかを舞台監督と相談しておきましょう。
サスを降ろす順番は必ず1サスからと決まっているわけではありませんので、同時並行で道具さんがリノリウムを前から敷いていく、舞台の前から幕を吊っていくので照明は奥から攻めていくという場合もあります。舞台、照明、音響の各セクションで譲り合いながら調整しましょう。
もし、敷物を先に敷く場合にフロアコンセントがふさがってしまう場合は先に使用するフロア回路にケーブルを刺して、回路を確保しておきましょう。
仕込みを始めるときは、「照明チーム仕込みを始めます」と周囲に声をかけてから始めましょう。
吊り物装置の昇降操作時、ホール・劇場管理者は操作の指示だけでなく昇降装置の些細な異音も感知できるように神経を研ぎ澄ませています。そのため、周囲の人には大きな声や物音を立てないようにしてもらいましょう。
ホール・劇場の予備機材、持込み機材をサスに吊り込むときは、仕込み図を見て大まかな吊り位置に機材を置いておきます。このとき、サスの真下に置くと昇降時のじゃまになるのでサスの位置より後方に置いておくようにしましょう。
サスを降ろしてもらう
サスペンションライトバトンを降ろすときには、ホール・劇場の操作盤担当者に「1サスダウンお願いします」とはっきり大きな声で指示を出します。
そのときに、周りにも「1サスダウンしています」と声を掛けて周知させます。同時に手の空いている仕込み要員は、サスの両端に付いて安全に昇降できるように監視しましょう。
手の届きそうな位置まで降りてきたら、操作盤担当者に「間もなくです」と声を掛けます。そして、ダクトのコンセント上部に手が届く位置まで降りたら「はい」と声を出して停止してもらいます。
停止させる高さを背の低い人に合わせると、大変喜ばれます。
昇降装置は同時に昇降操作をしてもらうこともできますが、1本ずつもしくは時間差(1サスが半分くらい降りたところで2サスを降ろしてもらう)のほうが安全上望ましいです。
サスが降りたら一斉に吊り込みに取り掛かるのではなく、色を用意する、延長ケーブルや分岐ケーブルをホールのケーブルラックから持ってくる、DMXケーブルを用意する人もいると、スムーズに仕込みが進んでいきます。
サスの仕込みの手順
- 仕込み図どおりに灯体を吊っていく。
- 使う機材のケーブルを下に垂らしておく。
- 使う灯体の回路を取る。
- 色とネタを入れていく
- 回路番号を仕込み図に書き込む
- 最終チェックと回路の控え
1.仕込み図どおりに灯体を吊っていく。
仕込み図は、吊り込む方向と描いてある方向が逆向きになるので、横半分に折ってマグネットクリップで逆さに挟んでダクトに貼り付けて見ながら吊っていくといいでしょう。
吊り込む位置は、仕込み図どおりの位置に正確に吊り込みます。サスバトンには間数表示が表示されていますので、間数表示を見ながら追加する機材を吊り込む場所に吊ってある灯体は降ろすか横にずらして、吊り込む予定の灯体を吊っていきます。
プランナーがどれだけ考慮しながらプランを考えても、実際の現場では狭くて灯体を振ると隣の灯体に当たってしまう、台数分吊り込めないなど図面通りに仕込めないことも多々あります。そういうときは必ずプランナーに相談をしましょう。
2.使う機材のケーブルを下に垂らしておく。
吊りこんだら、仕込み図どおりの方向に灯体の首を振り、ソースフォー、バンドアの羽は全部開けておきます。使う灯体のケーブルは垂らしておくと、どの機材を使うのかがひと目で判別できます。
このとき、床にガシャンとプラグが当たるように落とすと、ホール・劇場スタッフの眼が鋭く光ります。プラグは割れやすいので大切に扱ってください。
3.使う灯体の回路を取る。
仕込み図に回路番号がすでに記載されているときは、その番号通りに回路を取っていきます。
記載されていないときは、その場で取る回路を自分で決めて取っていきます。ホールや劇場によって変わりますが、多くのホール・劇場では下手から1,2,3,4,1,2,3,4,5,6,7,8・・・10,11,12というように続いているパターンと、1,2,3,1,2,3,4,5,6,1,2,3,4,5,6,4,5,6,7,8,9,7,8,9,10,11,12,7,8,9,10,11,12というように一部が入れ替わるパターンがあります。回路を取る前にざっと回路順を見渡して、計算をしながら取っていきましょう。
同じチャンネル(フェーダー)に入れる灯体は別回路で取ってもパッチで同チャンネルに入れることが可能です。ただし、何も考えずに端からナナメ2色、地明り3色を1台1回路ずつ取ってセンターまで来たらセンターサスの回路が足りなくなったということはしばしば起こりますので、分岐ケーブルなどを使ってまとめられるところはまとめておきましょう。
また、そのサスを仕込んでいる方同士で「3番もらいます」と声を掛け合いながら取っていくと回路の重複を防ぐことができます。
ケーブルはゆるすぎずきつすぎず適度な状態でバトンやダクトに掛けて取ります。ぐるぐる巻き付け過ぎたり、灯体に掛かるような状態はやめましょう。
また、延長ケーブルや分岐ケーブルの取り回しは、バトンやダクトにぐるぐる巻きつけるとバラシが大変なだけでなく、シュートのときに手間取ります。ダクトやバトンの出っ張りなどを利用してゆったりと引き回すようにしましょう。
また、ホールや劇場によってはケーブルを掛けることのできるフックが設置されているところもありますので、うまく利用しましょう。
例えば、#78の1kW凸3台を分岐ケーブルを2本使って1番の回路で取った。
これは、コンセントの容量オーバーです。
#40の1kWパーライト4台を5番の回路が2つあったので、それぞれ2台づつ5番で取った。
これはユニットにある5番回路のブレーカーの容量オーバーです。
コンセント、ユニット、それぞれの容量オーバーにならないように計算しながら取っていきましょう。
ケーブルを引き回して垂れ下がった状態のままにしておくと、シュートのときに介錯棒で引っ掛けてしまったり、灯体に触れて熱で溶けてしまうことがあります。必ず処理をしておきましょう。
つっぱらない程度にビニールテープでバトンに固定するか、ゴムで留めるようにしましょう。
こういう束ねバンドがあると便利です。こちらは#25という幅広タイプなので、ちぎれにくく丈夫です。
4.灯体にネタと色を入れる
そのサスを全部仕込み終わったら、色とネタを入れていきます。使う色は最初に入れる灯体の下に置いたり、灯体の上に乗せるなどしておくとどの灯体に入れるのかがひと目でわかりやすいです。
色を入れる位置は灯体によって変わりますが、縦横両方向に付いている場合は縦に落とし込む方のフィルタホルダ枠に入れたほうが介錯棒でつついて落下させる心配もなく安全です。色を入れたらストッパーを必ず固定しましょう。
横からの差し込みタイプに金シートを入れたときは、固定ネジを締めすぎるとシート枠が歪んでしまいますので締めすぎないようにします。
パーライトやFQなど、バインド線が付いている場合は必ずバインド線でしっかりと固定しましょう。
5.最終チェックと回路番号の控え
降ろしたサスの仕込みを終えたら、どの灯体をどの回路で取ったかを仕込み図に控えます。
一人が書き込んでいるときに、他の人はワイヤーが正しく掛かり、ハンガーの固定ボルトがしっかり閉まっているか確認をします。固定ボルトとダボ部分の蝶ネジはしっかりと締めますが、黒ネジはしっかり締めるとシュートのときに首が動かなくなるのでほどほどにしておきます。
そのサスの仕込みを終えたら、仮シュートはチーフに任せて他の人はその間に他のサスの仕込みやフロア周りに取り掛かります。サスを離れる前に、マグネットクリップで挟んだ仕込み図をダクトに貼ったまま忘れていないか確認しましょう。
美術バトンへの吊り込み
今回、照明はサスバトンへだけではなく美術バトンも使用します。使用するのは第2バトンです。美術バトンは手引きのところもありますが、今回は電動バトンを想定して吊り込みます。
美術バトンはサスバトンと違ってコンセントダクトがありませんので、フロア回路へケーブルを立ち下ろす必要があります。灯体の吊り込みと同時並行で、1人はケーブルを引き回す作業に取り掛かります。今回、仕込み図には回路の指定がありますので、下手に立ち降ろします。
10mか20mくらいの長いケーブルを用意します。2口から3口の回路が取れるマルチケーブルがあると何本も引き回す手間がないので楽です。
メス口を灯体から近い位置で固定したらケーブルを軽く1〜2回バトンに巻き付けながら端まで伸ばし、バトンの端で鉄管結びをします。バトンに巻き付けても重さで垂れ下がるので、要所要所をビニテで固定します。このとき、巻き付けたテープの端を少し折り返しておくとバラシのときにすぐ剥がすことができます。鉄管結びをしたところは解けないようにビニールテープを巻いておきましょう。
ケーブルがフロア回路まで足りないようであれば、途中で足しておきます。中間のケーブル接続部のプラグとコネクタはケーブルの自重で外れることがあるので、必ずビニテで固定をして、バトンをアップするときに絡まないようにしておきましょう。
吊り込みが終わったら、仮シュートのタッパまで上げてもらい、フロア回路にプラグを刺しておきます。バトンをアップするとき、立ち下ろしのケーブルが絡まないように、1人がケーブル介錯に着くようにしましょう。
仮シュート
操作盤担当者に、「1サスを少し上げてください」と指示を出します。フォーカスに手が届くぎりぎりの高さでストップを掛けて止めてもらいます。
「1サス回路ください」と照明担当者か操作盤担当者に伝えると、そのサスを全点灯してくれます。
仮シュートでは、実際のサスの高さを想定してフォーカスを調整し、灯体の向きも合わせます。灯体のチルト固定ハンドルは締めすぎないようにしましょう。あまり締めすぎてしまうと、シュートのときに苦労します。
地明りの大きさは、そのホールの照明担当者に聞いてみるといいでしょう。サスのタッパを低めにするのなら、ホールでのデフォルトの大きさよりも若干大きめに、高めに設定するのなら若干小さめに合わせます。フォーカスの大きさは、舞台の板目の枚数で合わせると揃えることができます。
ナナメは、一番舞台側(手前)が大きめ、一番内側(伸び)を小さめにします。真ん中は手前と伸びの中間くらいです。
ソースフォーやサスは床で合わせず客席や天井に向けて距離を取り、ピントとフォーカスを調整します。
パーライトはモーガルを回して向きを調整しておきます。タッパが変わると球の向きの角度も変わるので、天井や客席に向けて見ながら調整します。
再度ハンガーの各部とワイヤーをチェックしたら「回路ありがとうございました」と言って消灯してもらい、サスをアップしてもらいます。シュート前にすべての吊り物のタッパを決めますので、このときのタッパはホールの定位置あたりで構いません。
フロア周りの仕込み
すべてのサスの仕込みを終えた時点で、仕込み要員はフロア周りの仕込みに取り掛かります。フロアに仕込む持込み機材、ホール・劇場機材を準備して仕込み図どおりに機材とケーブルを置いていきます。
スタンドを使うときは灯体を乗せてから、オベタを使うときは灯体を置いてある状態のまま灯体に装着してから持ち運ぶと手間が省けます。持ち運ぶときは、器具固定ハンドル(黒ネジ)はしっかりと締めておきましょう。
フロア回路は30Cですので、使うケーブルは30C-20C(30C-T)を用意します。
舞台の仕込みの都合でまだフロアに仕込む灯体を置けないときは、仕込む場所の邪魔にならない場所に置いておいて、舞台の仕込みの状況に応じて仕込めるところから仕込んでいきます。
フロアの回路は、「SSのA回路は1,4,7でB回路は2,5,8」というように先に決めてから仕込むときもあれば、仕込みながら決めることもあって現場の状況によって変わります。
時間のない現場では、フロア周りを仕込んでいるときにパッチを終わらせてしまうこともあります。
パッチ
だいたいの仕込みが終わったら、パッチに向けて取った回路を1枚の仕込み図にまとめておきます。
パッチは照明担当者に「パッチお願いします」と依頼をします。調光室へ上がるときは、回路をまとめた仕込み図とチャンネル表を忘れずに持って上がります。トランシーバーがあれば、舞台にいる人にも渡しておきます。
調光卓にはチャンネルの名称を書き込む仕込み記入板があります。ここにはデルマ(正式名称はダーマトグラフ)というプラスチックに書き込める筆記用具を使用して書き込みます。
このデルマはどのホール・劇場にも置いてあるので自分で持ち込む必要はありません。もし間違えてしまったときは、布で拭いて消すことができます。これも調光卓に置いてあります。
もし置いていないときは、白のビニールテープを貼って黒いマッキーで書き込んでください。
書き込んでいる間に、もしJASCIIデータをあらかじめ打ち込んできている場合はUSBを渡して読み込んでもらいましょう。
書き終えたら、パッチをお願いします。調光卓によって回路(ディマー)から言ったほうがパッチをしやすい卓とチャンネルから言ったほうがパッチしやすい卓がありますので、「ディマーとチャンネルのどちらから言ったらいいですか?」と確認しましょう。ここでは、ディマーから言う方法で書いていきます。
管理者「はい。(1サスの画面に移動)」
オペレーター「1番を35番です。」
管理者「(マウスでディマーを選択しチャンネル番号を入力をして)はい。」
オペレーター「2番と10番を47番です。」
管理者「(マウスでディマーを選択しチャンネル番号を入力をして)はい。」
というようにやりとりをしていきます。ディマーは複数選択が可能です。「1サス3番と2サス10番」というように同じ場所でなくても問題ありません。
フロア回路、フロントサイドライトなど上手と下手に別れる回路は、わかりやすいように「下手(上手)から行きます。」と伝えましょう。
シーリングは今回の仕込み図では特に回路を指定していません。ホール・劇場管理者にどう分けて取ったら聞いてみるといいでしょう。
点灯チェック
パッチが終わったら、点灯チェックを行います。舞台上にいる人に「点灯チェックします」と声を掛けましょう。トランシーバーがあれば舞台にいるトランシーバーを持った人とやり取りをします。トランシーバーがなければ、袖のインカムを借りて舞台中まで引っ張ってきてもらいます。舞台中まで引っ張れないようであれば中継する人に付いてもらいます。
点灯チェックのやり方は人それぞれですが、どの場所のどの灯体が何台点いていて何の色が入っているかということが確認できれば問題ありません。例えば、「1サスのフレネル、ブルー4台」というように舞台にいる人に伝えて、正しければ「はい、4台点いています」と伝えるというような感じです。
ここで結線ミスや回路の取り間違い、色の入れ間違い、点灯しないということがあれば控えておき、全チャンネルを確認し終えたところで舞台にいる人はホール・劇場管理者にサスを降ろしてもらい、問題箇所の確認します。もし、パッチを変えるだけで解決できそうならそれでも構いません。
今回の仕込みでは、順調に進んでいけばパッチと点灯チェックが終わったところでお昼になるはずです。音響さんに舞台を渡して照明チームはお昼に入ります。ホール・劇場スタッフには作業再開時刻を告げておきましょう。
吊り物のタッパ決め
照明、大道具すべての仕込みが終わったところで、幕類と吊り物類のタッパを決めます。今回は舞台監督が幕類のタッパだけ決めて、照明は照明プランナーにおまかせという前提で話を進めます。
まず、サスに吊っている灯体をすべて30~50%くらいで点灯します。タッパを見る位置は客席前列です。タッパを決めるときは、操作盤に指示が聞こえるように舞台中に中継する人を付けます。
決めていく順番は奥に吊っている照明からです。今回の仕込みでは一番奥はアッパーホリゾントライトなので、アッパーの位置から決めます。
中継者「アッパーから行きます。アップです」
管理者「アッパー、アップします」
プランナー「(いい高さになったところで)はい」
中継者「はい」
プランナー「アッパー、ワンタッチダウンです」
中継者「「アッパー、ワンタッチダウンです」
プランナー「はい、アッパーこれで決まりです」
中継者「「はい、アッパーこれで決まりです」
サスや美術バトンの基本的な照明のタッパは客席前列に座っても灯体が見えない位置ですが、ホール・劇場によっては前列の後ろのほうに座っても見切れてしまうところがあります。「ここまで見えても大丈夫」というラインは舞台監督と相談の上で決めましょう。
演目やプランによっては、照明を隠さずあえて見せるという手法もあります。ビームを見せたい、光源を見せたい、客席に向ける灯体があるときなどは効果が出る位置に設定します。また、ホールや劇場によってはサスバトンが文字幕と迫っていて(近い)灯体を客席側やホリ側に振ると当たってしまうというところあります。そういうときは安全を考えて文字幕より下に設定しましょう。
タッパが決まったら、操作盤でタッパ設定ができるのであれば「このタッパで設定してください」と言ってタッパを記憶してもらいます。タッパ設定ができないホールや劇場であれば、昇降するときに目印を決めておいてください。立ちおろしケーブルがあればテープで目印を付けておくとわかりやすいです。
締めくくり
ここで書いた仕込みの段取りは演目のジャンルやチーフ、会社のやり方によって多少の違いがありますが、基本的なホール・劇場管理者と照明チーム内でのやりとりや段取りを知ることでスムーズに作業が進むので、しっかり覚えておきましょう。