世田谷パブリックシアターでは、開館当初から舞台技術講座を開催しています。舞台照明・舞台音響の講座では入門編と中級編があります。入門編は舞台技術スタッフを目指す人達のための講座で、中級ではもっと踏み込んで技術を学んでいきます。
39回目となる今回の舞台照明中級講座は『照明プランを考える』という内容だったので受講してみることにしました。
中級講座の定員は15名。2日間の開催で両日参加が必須です。書類審査があるため、応募時に経験年数などを記入して応募します。書類審査の結果は無事に合格。
当日までに参加費を振り込み、当日は実技もあるため動きやすい格好で参加します。
1日目
1日目は13時から18時までの開催です。ロビーで受付を済ますと、資料と軍手を渡されました。
当日の持ち物には書いていませんでしたが、革手を持っている人は革手を持ってくるといいかもしれません。
会場はホールです。客席一番前列から数席を取り外してあり、そこに長机と椅子が置かれています。
講座の最初は座学です。今回中級編なのである程度経験のある人達ばかりだと思っていたら未経験者もいるとのことで、舞台照明の基礎的なことから講義が始まりました。
これが未経験者がいないときはどんな講義だったのかが気になるところです。
座学のあとは、いよいよ実習です。世田谷パブリックシアターの講座で必ず使われているという題材を元に照明プランを考えていきます。
題材は、誰もが知っている日本の昔話です。5分程度の朗読劇で音源の中にすべて音声とSE、BGMが入っているため実際には読み上げません。舞台に立つのは世田谷パブリックシアターのスタッフさんです。
まずは素材を聴いてみて感じたことを台本に書き込みます。一回目では何を書き込んでいいのかわからない人もちらほらいたようです。そこで講師の方が書き込む内容について話し、再び聴いてみます。2回目に聴いたときにはほとんどの人が台本に書き込んでいました。
続いて、グループごとにプランを考えていきます。グループはA班からC班まですでにメンバーは決まっていて、くらげはC班です。
C班メンバーは女性2名男性2名の計4名、そして講師として世田谷パブリックシアター技術部スタッフの2名の方が付いてくれます。
今回、演出は技術部照明担当マネージャーの方が努めます。そこで事前に演出意図について伝えられました。この演出意図に沿って、朗読劇のプランを考えていきます。
最初は演劇的なプランを考えていましたが、講師の方から演劇ではなく朗読劇であるという点について伺い、また演出家の演出意図も照らしあげた結果、演劇的要素はあまり盛り込まずに考えていくことにしました。
まずは台本から場面を洗い出していきます。そして洗い出した場面からさらに細かい場面を洗い出していきます。そして、洗い出したシーンにキュー番号を振ってシーンごとに照明について考えていきます。
と、ここで衝撃の事実が判明。C班メンバーの2名は舞台未経験者、もう1名は未経験でこの業界に入ったばかりの新人さんでした。
「シーリングが・・・」と言ったところで「シーリングって何ですか?」と言った具合にたびたび話し合いが中断しましたが、経験豊富な劇場スタッフの方がやさしくていねいに教えていました。
ただ、もうひとりの未経験の方はわからないなりに頭の中にシーンが浮かんでいるようです。しかも奇をてらったなどということはなくきちんとした答えがあってのイメージで、具体的な機材や場所の指定はないものの「ここはこうだからここからこんな感じで明かりが入って」というように伝えてくるので、くらげの考えたイメージと合わさって徐々にプランが出来上がってきました。
そして考え出されたプランがこちら。
キューの数は全部で17になりました。朗読劇であるということを前提条件として、3箇所の朗読者にトップサスとシーリングのネライを作り、台本が読めるように常にトップサスを30%残す明かりをベースとしてプラスアルファを加えていく感じで作っていきました。プラスアルファのアイデアはすべて未経験の方のアイデアです。
明日はこのプランを元に仕込み、シュートをして本番に臨みます。
2日目
2日目は仕込みと本番です。
10時からミーティングの後、仕込み開始です。仕込み図は昨日のうちに劇場スタッフの方が3班合わせたものを作成してくれました。
ミーティングは劇場スタッフと乗り込みスタッフとの確認や注意事項を打ち合わせる作業で、実際に行われているものです。仕込みは雪駄禁止、ヘルメット着用です。ヘルメットは劇場のものを借用しました。
パブリックシアターの舞台照明設備はライトブリッジですが、このブリッジはワイヤーで吊られているだけなので台車に乗せて移動し、任意の電動バトンに吊り変えることが可能です。給電ケーブルはすのこのユニットから任意の位置に下ろして対応します。現在日本で3カ所にしかないそうです。
仕込み中にそういった説明を受けたのですが、想像を絶していて実際に見てみないとまったくどういうものか理解できません。
講師の方々の指導を受けながら、各々照明機材を吊りこんでいきます。初心者や未経験者への指導を聞きながら、手順を改めて見てみるとけっこう自分は雑にこなしているところが多いなと実感しました。たまには作業の手順を見直すことは大事です。
仕込みが終わったら、シュートに入ります。ライトブリッジに乗り込んで作業をするのは劇場スタッフの方々で、指示をするのは劇場スタッフ及び参加者です。自分たちで考えた明かりを指示しながら当てていきます。
お昼を挟んで、明かりづくりです。まずはくらげたちC班から始めます。卓は客席に仮設している丸茂のシューティング機能付きMARIONET STARいわゆるムービング調光卓です。プリセットフェーダーがないため、「チャンネル5番と8番を50%で」というようにすべてチャンネルでゲージを指定していきます。
だいたいの感覚で最初にゲージを決めたあと、10%アップ、10%ダウンと言う感じで決めていき、ホリの色を決めかねているときはエンコーダーで転がしてもらって色合いを見ながら決めていきました。
1時間位で明かりを決めたあとは全部の明かりを返して確認するテクリハを行い、それから通し稽古を行いました。オペレートは各班1名なので、C班は「シーリングって?」と聞いていた方にしました。未経験にしてパブリックシアターで照明オペレーターデビューです。
通し稽古が終わり、続いてB班、A班が明かりづくりを行います。その間に、講師の方からのダメ出しを聞きます。タイムなどをあらかじめ決めておいたものの、GOボタンを押すタイミングとの関係もあって修正するところが出てきました。明かりを直す時間はないので、タイムとキューのきっかけだけを修正します。
ダメ出しのあとにB班、A班の明かり作りを見ていると、どちらの班も地明りや前明かりで色を出すと言った演劇的な明かりの作り方をしているのが印象的でした。中にはエフェクトをうまく使っているシーンもあって照明プランというのは何通りもあっておもしろいなと実感しました。
3班全部の明かりづくりが終わり、休憩と修正時間を挟んでから本番です。オペレートするのはくらげではないのですがやっぱり緊張します。
本番では、オペレーターの方はダメ出しのときに出たキューのきっかけ通りにオペレートし、何事もなく無事に本番を終えました。
全部の班が本番を終えたあとは総評です。各班の感想や演出を担当した技術部照明担当マネージャーからの総評を楽しみにしていたのですが、各班の感想を述べる場面はなく総評も「いろいろ思うところはあるけども照明プランは自己満足で答えはない」というたった一言で終わってしまい拍子抜けでした。
こうして、2日間の講座はすべて終了しました。
締めくくり
くらげが今回この講座に参加した理由は、照明プランナーの頭の中を覗いてみたいと思ったからです。照明家の人たちは何を考えてどういった手順でプランを考えていくのかが知りたかったのです。
そして、プランを考えていく中で出てくるいろんなプランをブラッシュアップしながら作品を作り上げていきたいと思っていました。
なので、班のメンバーに舞台経験者がいなかったというのは非常に残念でした。期待はずれだったという気持ちは否めません。
ただこの講座を受講してみてわかったのは、未経験者の考えるプランが型にはまらず柔軟性があるということです。ガチガチに凝り固まったくらげの脳みそが少しやわらかくなったような気がします。
結局のところプランナーの頭の中は覗けませんでしたが、照明プランというものについて考えるいい経験にはなりました。こういった講座が他にもあればぜひ参加してみたいです。