調律師の仕事とピアニストが求めるピアノ

ピアニストにとって、ピアノは大切な表現媒体であることはいうまでもありません。しかし、ヴァイオリニストやチェリストのように自分の楽器を持ち運んで演奏することができません。演奏会場に置いてあるピアノに対応してより良い演奏を観客に届けなくてはなりません。

ピアニストにとって、その日演奏するピアノの具合によって演奏も左右されるため、調律が重要になってきます。
調律には、ただ弦を調整して音階を合わせるだけでなく、ピアニストの要望に合わせてタッチやペダルの調整など様々な調整を行っています。ピアニストにとって調律はなぜ必要なのか、どういった調整をしているのか、ということについて、小屋付きも知っておく必要があります。

今回は、2014年2月25日に彩の国さいたま芸術劇場小ホールで開催された、”さいたま舞台技術フォーラム 2014
舞台で活躍するピアノの魅力を探る ~ピアニストの熱い思いを繊細に奏でるピアノを提供するために~”よりご紹介します。

調律師の仕事

調律師の中でも、コンサートや録音などで演奏者からのリクエストに対し限られた時間の中で演奏会に備え音を作っていく調律師のことをコンサートチューナーといいます。

コンサートチューナーは、メロディー、ハーモニー、リズムという音の3要素を元に、仕事を行います。

調律

調律は、音を合わせる作業で、調律師はピアノの弦の張力を調整して音を合わせます。逆に言うと、調律師は弦の張力しか変えられないと言っても過言ではありません。この張力の調整により、各弦に対応する振動数を一定の規則、音律に従って調整し、音階を作成していきます。

この調律を行うための作業は可逆といい、例えば音を上げすぎてしまったら今度は下げられる、あるいは下げすぎてしまったら今度は上げられるため、何回もトライ&トライをすることができる作業です。

整調

整調というのはアクションの動き、タッチ、モーメントを変えていく作業です。まず鍵盤の高さを揃え、そしてキーが沈む深さを整えます。
それから、ハンマーの運動量やジャックがどこまでハンマーを押し上げるか、バックチェックの位置、スプリングの強さなど、こういった過程でアクションの動きを整え、ピアノのタッチを作っていきます。

変えている。これも可逆です。ネジを回して調整しますので、壊してしまわない限りは逆の操作を行えます。

整音

整音というのはハンマーのスティフネス、強さ、剛性を調整して、部分音構成をいじる作業です。
ハンマーに針刺し等を行って、ハンマーと弦の接触時間の調整を通じて部分音構成を変化させていきます。ピアノの場合、この接触時間は他の楽器とは比べ物にならないくらい長く、それによって音色を変化させることが できます。

この整音に関しては可逆ではありません。ピアノのハンマーに物理的に針を刺したり、ヤスリで削ったり、熱を加えたりなどいろいろな作業を行いますが、逆の操作はできません。針をさして、その後で刺してない状態にすることは原理的に不可能です。
調律師によって効果が違うということもあって、下手な人にやってもらうと取り返しのつかないことになってしまいます。

修理に関しても同様で、下手な人にやってもらうと取り返しのつかないことになります。楽器の修理というのは非常に繊細で、やる人によって全く変わってきます。

調律師ができないこと

ピアノには調整できないことがあります。それは、張力で変更できない部分音です。それは調律師が逆立ちしても変えられません。
それから弦の非調和性です。これはピアノの音を大きくしようと思ったばかりにできてしまったことです。どちらかというと出てきてほしくなかったことですが、ピアノの大きな特徴となった非調和性というのは変えることができません。
それから響板系に依存する部分音構成。これもあとからは変えることができません。同様に、響板系に依存する減衰も変えられません。

他にも放射特性などいろいろたくさんあるんですが、これらは調律では変えることができません。だからピアノを購入するときは、これらに関しては、よく気をつけて選ばなければなりません。
あとからメインテナンスでなんとかしてよと言ってもどうにもならないのです。

ピアニストから調律師への一番多いリクエスト

ピアニストからの一番多いリクエストは、「弾きやすくしてほしい」ということです。
コンサートでは、長時間に渡り弾き続けますので、やはり鍵盤の操作性のよさが大事になります。
ピアニストは、コンサートのために用意したプログラムを長期に渡り準備して仕上げていきます。自分の思い通りに演奏するためには、楽器が弾きやすいということは大変重要なことです。

調律師は、鍵盤アクションの調整・動きを何度となく見直し、音の出るタイミング、レガート、素早い連打などさまざまな要素を可能な限り揃えて準備します。また、ペダルの操作性・踏み心地も大切です。

二番目に多いリクエスト

次に多いリスエストは、「音色を揃えてほしい」です。

まず全ての鍵盤で音色が均一であることが大事です。ピアニストは幼少の頃から日に何時間と練習し続けて鍛えていますから、多少のタッチのムラはコントロールできますが、音色(ハンマーの硬さ)のムラをコントロールすることは困難です。ピアニストによっては自分で音のチェックをし、「この音、この音・・・」と調律師に指示を出して修正を繰り返しながら音色を揃え、ピアノを仕上げていく方もいます。

ピアノ協奏曲では、オーケストラの音に埋もれてしまわないように力強くブリリアントな音色が求められますし、歌の伴奏などでは歌よりも出過ぎないメロウな音色でありながら曲の動きや細部がきちんと見通せるよう、音に輪郭や繊細さが求められます。

演奏スタイルによっては、全体的に音の作りを見なおさなければならない場合もあります。
音色は、ハンマーフェルトの弾力・硬さを調整して作り上げていきます。ハンマーフェルトの状態が整ってくると、おのずとタッチも揃ってきます。

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