グランドピアノ、アップライトピアノの足元に付いている3本のペダル。一番右のペダルは使うけど、真ん中と左はよくわからないという方もいるのではないでしょうか。
そこで、ペダルについて詳しく調べてみました。
アクションとペダルの歴史
鍵盤を押すとハンマーが弦を打つというピアノの仕組みをアクション機構といいます。ペダルを語る前に、まずこのピアノアクションとペダルの歴史について簡単に説明をします。
ピアノになる前の有鍵楽器
ピアノの前身となる有鍵楽器に、クラヴィコードやハープシコードがあります。クラヴィコードは非常に単純な構造になっていて、張られた弦をタンゲンテもしくはタンジェントと呼ばれる金属の棒でたたいて音を出します。クラヴィコードには、鍵盤を指で押してタンジェントが弦にあたった状態で揺らすと、ビブラードをかけることが出来ます。構造はピアノと似ていますが、弦に張力を掛けていないため音が非常に弱いという難点があります。
一方、ハープシコードはギターのように爪で弾くように音を出す構造になっています。クラヴィコードより強い音が出ますが、チェンバロは鍵盤に触れたときに指先で弦に爪が掛かるのを感じながら、まさしくつまびくように弾くため、音の強弱を付けることはできません。
この二種の楽器の特色を合わせた新しい楽器を生み出したいという希望は楽器製作者だけでなく音楽家も熱望していました。1700年代に入り、チェンバロのような音量と張りのある音色を持ち、クラヴィコードのように強弱を付けられる鍵盤楽器を開発するためにヨーロッパでピアノの開発が進められます。
ピアノの登場
17世紀末、楽器製作者のバルトロメオ・クリストフォリがフィレンツェで最初のピアノを考案します。以降、クリストフォリが開発したアクション機構はイタリアやスペインの楽器製作者に継承され、さらにドイツを経て18世紀後半から19世紀にかけてイギリス・ドイツ・オーストリアで独自の発展を遂げていきます。
1780年、イギリスのピアノ製作者ジョン・ブロードウッドはアメリクス・バッカースとロバート・ストダートと共に、スクエア・ピアノの共同製作を始めます。バッカースはイギリスのチェンバロに外見を似せて、クリストフォリ系統の翼型ピアノ・フォルテを設計します。
設計したアクションはイギリス式グランド・アクションと呼ばれ、バッカースが開発したアクションは1777年にストダートがイギリス式グランドアクションの特許を申請。「グランドピアノ」という言葉が用いられるようになります。そして、ジョン・ブロードウッドが最初のグランド型ピアノを1778年に完成させます。操作しにくい膝レバーに代わり足元にダンパーペダル・ソフトペダルを導入し、特許を取得します。
ペダルと音楽家
19世紀の初め頃のピアノは、アクションがまだ不完全で指で音量を加減することが難しかったこともあり、ニュアンスに富んだ弱音に美しさを見出す音楽家たちのために多彩な弱音ペダルが備え付けられ、ペダルの数は3本から5本もありました。中にはドラム・ペダルやシンバル・ペダルといった付加的なペダルも備わっていました。
弱音ペダルの効果を最初に見出したのがベートーヴェンで、彼の弟子のチェルニーは「ベートーヴェンの場合、ペダルの使用は非常に頻繁で、彼の作品に記されているよりはずっと多かった」と記しており、かなり効果的にペダルを使い分けていました。
また、クレメンティの弟子であるジョン・フィールドやフンメル、チェルニーといったベートーヴェンの一世代後の作曲家はペダルを重要な表現手段としており、この3人の手法を最も純粋に受け継いだのがショパンでした。彼はフンメルの『ピアノ奏法』を正統的に引き継ぎ、ペダルは一つの流派を生み出しました。
19世紀半ばになると、ピアノの性能が向上し、指の圧力だけで多彩な音量と音質のグラデーションを作り出せることになったことで、それまであった付加的なペダルは姿を消し、弱音ペダルは一本だけになり合理化されていきます。
もっと詳しくピアノの歴史を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
ピアノの誕生とその歴史を知る〜第1回【紀元前から18世紀まで】
各ペダルの名前と働き
ピアノのペダルは、それぞれ足で踏むことによって音色を変えることができます。
ペダルは鉄または真鍮の鋳物でできていて、アップライト用は心棒が後端に、グランド用は心棒が中程に付いています。
右ペダル
一番右のペダルは、ラウドペダル、ダンパーペダル、サスティーンペダルと呼ばれていて、アクセルのように踏み込む深さで効き方が変わります。もっと響きを厚くしたい、音を長く引き伸ばしたい、迫力を出したいというときに使います。
このペダルを踏むと、弦を押しているダンパーが一斉に弦から離れるので、鍵盤から指を離しても他の弦に共鳴して音が大きくなります。また、鍵盤を打ってからペダルを踏むと、鍵盤から指を離してもダンパーが上がったままになっているから、音が止まらずに響くため、強く美しい音を出すことができるのです。
真ん中のペダル
このペダルはアップライトピアノとグランドピアノでは機能が異なります。
アップライトピアノではハンマーと弦の間にマフラーのようなフェルトを下ろして音を弱くするため、マフラーペダル、ミュートペダルと呼ばれています。
グランドピアノはソフトペダル、ソステヌートペダルと呼ばれ、鍵盤を押さえた状態でペダルを踏むと、鍵盤から指を離してもその音を持続してくれます。
左のペダル
グランドピアノではシフトペダルと呼ばれています。このペダルを踏むと、鍵盤からハンマーまでのアクション全体が右に弦一本分ずれ、ハンマーの打弦位置を変えます。3本弦の中音域では2本になることで音色が柔らかくなり、音が小さくなります。低音域の2本弦、1本弦もハンマーがずれて当たるので音量、音色ともに変化します。
アップライトピアノではソフトペダルと呼ばれています。このペダルを踏むと、すべてのハンマーが弦に近づくので、通常よりも打弦の距離が短くなります。その分、小さな音を弾きやすくなります。
締めくくり
ペダルの機能を調べていくと、そこにはピアノ開発の歴史が色濃く反映されていました。
ペダルの歴史を知ることで、演奏する曲への理解がより深まるかもしれません。
参考文献
- 音楽之友社 1950年7月1日 福島琢朗 『ピアノの構造・調律・修理』 ISBN4-276-12405-0 C1073
- 株式会社ヤマハミュージックメディア 2004年12月30日 原明美/江森浩 『知ってるようで知らない ピアノおもしろ雑学辞典』 ISBN4-636-20358-5
- 株式会社学習研究社 2007年12月18日 【監修】那須田務 『ビジュアルで楽しむピアノの世界』 ISBN978-4-05-403572-0
- 青弓社 2013年5月18日 西原稔 『ピアノの誕生・増補版』 ISBN978-4-7872-7331-4
- 講談社 2009年8月5日 樹原涼子 『いきなり&もう一度! 才能以前のピアノの常識』 ISBN978-4-299702-7
- クラヴィコード|THE PIANO ピアノの辞典
- ピアノの歴史1【ピアノ以前の鍵盤楽器】|Sounds natural