照明ネットワークの現場でのトラブルとその対処【MTC2017技術セミナー】

川崎市宮前区に拠点を持つエンジニア・ライティング社が毎年知識技能向上の一環として毎年開催していた自社セミナー、『MTC(Miyamae Techno Club)』。
前年までは宮前市民館で開催されていましたが、10周年の今年は川崎市多摩市民館に会場を移しての開催となります。

今回は会場の変更に伴い、例年よりも多数の協賛パートナー各社が参加。
LED、ムービングライト等を含む最新の演出照明機器のホワイエ展示及び舞台上でのデモが2日間に渡って行われます。

開催概要

  • 開催日時
    2017年6月14日(水)〜15日(木)
    両日ともに9時45分~18時00分
  • 会場
    川崎市多摩市民館 (大ホール/ホワイエ)
  • 協賛パートナー(ホワイエ展示及びデモ機材提供各社)
    株式会社伊東洋行  ウシオライティング株式会社  A.C.ライティング・アジア株式会社  株式会社 SGM JAPAN  株式会社LTG  株式会社剣プロダクションサービス  江東電気株式会社  有限会社ゴング・インターナショナル  有限会社シンクロライズ  株式会社スペース・エンジニアリング・ワークス  有限会社ゼニスシステムズ  有限会社タマ・テック・ラボ  株式会社テクニカル・サプライ・ジャパン  東芝エルティーエンジニアリング株式会社  パナソニック株式会社  エコソリューションズ社  PRG株式会社  ヒビノライティング株式会社  株式会社フォーリーフ  マーチンプロフェッショナルジャパン株式会社 株式会社松村電機製作所 丸茂電機株式会社

照明ネットワークの現場でのトラブルとその対処


1日目、午前中のセミナーは、エンジニア・ライティング技術管理部、森出氏とタマテックラボ玉田氏による照明ネットワークのトラブルに関してのセミナーです。

パソコンとインターネットの普及によりコンピューターネットワークが一般的になった今日、照明ネットワークにもEthernetを利用することが多くなりました。
LED機材やムービングライトの利用が一般的になってきたことで、現場だけでなく劇場やホールにもネットワーク化の波が押し寄せてきています。

しかし、それに伴いネットワークのトラブルは避けて通れません。そこで、トラブルとはどういうものなのか、どういった対処をすればいいのかを学んでいくことにします。

ネットワークの可視化


照明ネットワークに関するトラブルとして多いのが、つながらない・固まる・切れる・あおるなどが挙げられます。
トラブル発生時に迅速に対応するためには、まず原因を絞って考えていく必要があります。
ネットワークという目には見えないものをどう可視化してトラブルの対処をするかについては、まず”通信できている部分”と”できていない部分”を見つけます。

各機器のインジケーターを確認

ただし、基本的なインジケーター表示を事前に把握しておく必要があります。

Ping

Pingは機器間の回線状況を調べるためのコマンドです。各機器にPingを打ち、どこまで届いたかで原因を探っていくことができます。
Pingについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をご参照ください。

Windowsのpingコマンドでネットワークトラブルの原因を調査する

PCからコマンドプロンプト画面を呼び出し、下記のように相手の機器のIPアドレスを入力します。

>Ping 2.101. 36.100

コマンドを打つと、4回データを送信し、返信するまでの時間を表示します。
通信できない場合は「要求がタイム・アウトしました」という表示になるため、不具合の原因がネットワークである可能性があります。

  • ネットワークの不具合の場合
  • ケーブル、ノード、機器のNG、設定のNGを疑う

  • ネットワーク以外の不具合
  • 照明プロトコルの設定を疑う

機器メーカーの管理ソフトを利用

照明用に販売されているスイッチやノードには管理ソフトが用意されていたり、Webブラウザでアクセスできるものがあります。

つながらないときの対処方法

配線を確認する


どのようなトラブルであっても、まずは配線を確認することが基本です。つながらない、切れるといった症状のときには、差し込みが甘かったという原因で発生することも多々あります。まずは冷静になるという意味でも、まずは配線を確認することが大切です。

IPアドレス/Subnetマスクの設定を確認する

IPアドレスとは、通信を行うためにネットワークに接続された機器に割り振られた識別番号のことをいいます。
Subnetマスクとは、IPアドレスのネットワーク・アドレスとホスト・アドレスを識別するのに使用される番号です。

照明ネットワークに限らず、普段使っているパソコンでも、この2つの番号が必ず設定されています。


IPアドレス: 192.168. 0. 11
Subnetマスク: 255.255.255. 0 

この4つの数字は、0〜255までの数字で成り立っています。この数字をさらに細かく説明すると、左から3つ目までがネットワーク・アドレス、一番右側の数字をホスト・アドレスといいます。
住所に例えると、ネットワークは地域、ホストは番地です。ホスト・アドレスに0と255は使用できなため、ホスト・アドレスは1〜254が入ります。

照明プロトコルはArt-Netを使用する場合、IPアドレスの頭は2か10を使用します。
ネットワーク設定は、このIPアドレスとSubnetマスクを組み合わせて使用します。注意点としては、ネットワーク・アドレスは同一にし、ホスト・アドレスはずらして設定します。

ユニバースの設定でUnicastにしていないか?

ネットワークの通信方式には、ユニキャスト・マルチキャスト・ブロードキャストの3種類があります。
ユニキャストは、単一のアドレスを指定して、1対1で通信が行われます。マルチキャストは、特定のアドレスを指定して、1対複数で通信が行われます。ブロードキャストは、同一ネットワーク上すべての機器に通信が行われます。

詳しくは、下記のサイトをご参照ください。
ネットワークエンジニアとして|ユニキャスト、マルチキャスト、ブロードキャストとは

ユニキャストの設定が悪いのではなく、正しく使用できていないことが問題になります。

使用している照明プロトコルは合っているか?

照明プロトコルとは、照明や映像などの制御をするための信号送信規格です。代表的なものはDMX512-Aです。
DMX512が登場した当時は、1本の信号線で512chも制御できるDMX512は革新的でしたが、多チャンネル制御のムービングライトやLED機材の使用が増加したことにより、膨大な量の信号線が必要になります。

そこで利用されるようになったのが、Ethernetネットワークです。その代表的なものが、Art-netというTCP/IP(UDP/IP)に基づいたイーサネット通信規格です。イギリスのArtisic Licence社によって制定されました。
他にも下記のようなネットワーク規格が存在します。それぞれ異なった規格間の通信はできません。

  • Titan-Net(AVOLITES)
  • sACN(ESTA)
  • MAX-Net(Martin)
  • ETC-Net(ETC)
  • Hog-Net(High End System)
  • MA-Net(MA Lighting)

送信側と受信側のユニバース番号は合っているか?

ユニバースとは、DMX512の系統を表す単位です。一つのDMX512を1ユニバースといいます。
Art-Netの場合、最大で256ユニバースを送信することができます。

Art-NetでDMXユニバースを設定する場合、2通りの設定方法があります。
DMXユニバース番号を直接指定する場合: 0から255の数値を設定。

UBNETとUNIVECE(ID)で設定する場合: DMX ユニバース1に相当する番号はUBNET 0, UNIVECE 0 になります。
次が 0-1,0-2 となりユニバース 16 が 0-F、ユニバース17が 1-0.....ユニバース 256 が F-F に なります。

Art-Netには16進表記と通し番号が混在しているため途中でずれていくことがあり、タマテックラボの玉田氏は表を作って対応しているそうです。

マネージメントスイッチの各Portの設定は正しいか?

各機器をグループ分けする場合、VLAN(Virtual LAN/仮想LAN)という仮想化技術を使用します。
例えで言うなら、1つのスイッチが内部で複数のスイッチに分かれている感じです。グループで分けられ、独立したネットワークがあるように動作します。

詳しくは、下記サイトをご参照ください。
「分かりそう」で「分からない」でも「分かった」気になれるIT用語辞典|タグVLANとは

このグループ番号(VLAN)が異なっていると通信ができなくなります。

あおるときの対処方法

送信側で設定したユニバースの重複はないか?

同じユニバース番号の信号を受信したときに、マージ処理(統合)のできる機器は限られています。
複数のコンソールを同じネットワークに接続するときなどは充分に注意してください。

DMX変換ノードのRDM設定はどうなっているのか

ノードは、LAN-DMX変換器、RDMはRemort Device Management(遠隔負荷管理)の略称です。遠隔から器具と通信できる規格です。器具の検索・器具情報の取得・器具にパラメータを設定ができます。

RDMに関する詳細はこちらをご参照ください。
MTC2016セミナー RDM規格概要とその現状について
規格上では、DMXはStart Codeが 0 以外の信号は受信しません。ただし、灯体によってはスタートコードを無視しているものもあるため、RDM信号に反応してしまうことがあります。

RDMは使用しないのであれば、使用しない設定にしておいたほうが無難です。

トラブルを防ぐために

適切な機器を正しい設定で使用する

まず事前に正しい設定を行った上で現場へ持っていくことが大切です。
そして、機器の選択をする上で一番悩むものがネットワークスイッチですが、価格帯に大きく開きがあり、市販のものは数千円クラスからあります。

最低限、VLAN機能・SNMP対応などのマネージメントシステムや、高性能のCPU・大容量メモリーを搭載したものを使用することが望ましいです。

使用する機器の構成を把握しておく

ネットワーク構成図を作成しておくことで、迅速に対応することができます。

適切な環境で使用する

特に、夏場の屋外などの現場では周辺温度には注意しておくことが重要です。
民生機などは電源部分などにあるコンデンサーが熱に弱いため、ファンで風を送るなどの対処が必要です。

使用前にはケーブルチェックを行う

市販のLANケーブルに使われているRJ45コネクタは、あまり抜き差しをすることが考えられておらず200回程度しか想定されていません。

ですので、事前にチェッカーで確認しておくことをおすすめします。
また、受け側のバネが折れていたりすることもあるので、ケーブルだけでなく機器側の受け口を確認しておくことも大切です。

ケーブルは長く引きすぎない

ケーブルの最長は100mが限度です。この長さで引いていると、エラーや通信速度が遅くなることがあるので、なるべく長さを控えたほうがいいです。
また、ジョイントボックスも控えたほうが望ましいです。

ケーブルメーカーのノイトリック社には、耐久性と堅牢性を兼ね備えたイーサコンを取り揃えています。市販のものと比べると高いのですが、こういった高耐久性のイーサコンを使用することもトラブル回避になります。

ケーブルにはシールドが施されたSTPケーブルとごく一般的に使われているUTPケーブルがあります。現場で使用するケーブルの場合はSTPのほうが安全ではありますが、STPだと周波数特性が落ちてしまう特性があるため、あまり長く伸ばすことができません。
また、シールドが原因でノイズが乗ることもあるため、LANケーブルに限ってはおすすめできません。

ネットワーク設備のある会場への機器の持ち込み

会場の設備の確認事項

ノードの位置・IPアドレス、ユニバースの番号・ポートの場所などをネットワークの配線図(構成図)を確認。
また、使用している照明プロトコルも確認しておく必要があります。

持ち込みコンソールのスペックの確認事項

会場での施工に必要なスペックに対して持ち込み卓のスペックが充分に足りているかどうかを、事前にきちんと確認しておくことが不要なトラブル防止に繋がります。

締めくくり

LED機材への移行が進んでいる現在において、ネットワークについてのトラブル対処を知っておくということは、小屋付きでも今後は必須になるでしょう。
こういったネットワークに関することは、非常にややこしくて覚えていくのが大変ですが、今後も勉強を続けていく予定です。

なお、一部内容は下記書籍を参照しました。

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