日本照明家協会主催の全国舞台照明技術者会議in東京に、初めて出席してみました。
今回はLED照明について学びます。会場は、池袋にある東京芸術劇場プレイハウスです。
照明家協会主催ですが、対象者は若手からもっと勉強したい照明家、学生・教職員、演劇関係、ホール会館施設管理者、劇場関係者と幅広い方を対象にしているとのことだったので、学生も多く見られます。ただ、正直なところ、参加者が少ないように感じました。
内容
15:00~16:00 座学 CATの田中氏による解説で、LEDの基礎及び制御について必要なシステムについて学びます。
16:00~18:00 ワークショップ 実際の操作を通じて、色の作り方、調光の仕方を学びます。
18:40~20:00 仕込みの解説
機材のワークショップには、国内舞台照明メーカー4社が一同に集まり、LED機材を舞台上に展示していて、実際に調光しながらLEDとフレネルの違いを知ることができます。
座学
導入の傾向
まず、LED機材導入の傾向として、一番多く挙げられているのが芝居やコンサートで使われているムービングライトです。そして、ホールや劇場などで一番多く挙げられている導入例が、ダウンライト、客電、天井反射板ライト、その次に多いのが誘導灯、足元灯です。
こういった施設の設備への導入に続き、次にLED機材が導入されるのは凸やフレネルなどのレンズスポット、ソースフォーなどのプロファイルスポットライトだろうと予想されます。
特に公共ホールでは、行政側からほぼ強制的にLEDの導入が進められているためLED化は必然といえるでしょう。
天井反射板のダウンライト
クラシックホールや可動式の天井反射板に使われるダウンライトについては今までは生明かりしか出せませんでしたが、RGBなどのカラーを出せる天井反射板用のダウンライトを導入する例がいくつもあるそうです。
今まで、反射板を使用した状態で色を使うときには、正面反射板を上げてホリゾント幕と使用したり、スペースに余裕があれば正面反射板の前にロアーホリゾントライトを設置して染めるなどする必要がありましたが、ダウンライトで舞台全体を染めることができるようになります。
こうしたことにより、クラシックコンサートや吹奏楽、コーラスなどのコンサートに対するイメージも変わっていくことでしょう。
インフラの整備
まず、問題になるのが電源の問題です。
フレネルの場合は調光できる回路が必要でしたが、LEDの場合は直電源が必要になります。すべてLEDスポット化されれば、照明のフライダクトはすべて直回路になっていくことでしょう。
次に必要なのが電圧です。現在、海外製のLEDライトが多く使用されていますが、海外製品の電圧は200Vのため、フライダクトには100Vと200Vの直電源があると望ましいです。
制御信号については、DMX512がそのまま使われていくであろうとのことです。
ですが、今までは512chもしくは2系統で1024chで使用していましたが、LEDになると1台の機材で1chとは限りません。フルカラーであればRGBWのカラー+トータルの明るさを制御するインテンシティChの計5つのアドレスが必要になります。そこで必要になってくるのが、イーサネットです。イーサネットは、つまりLANのことです。
たいがいのホールではそこまで大規模に仕込むなんてことはありませんが、外部業者の持ち込み機材に対応するという面ではやはりネットワークの整備は必須になります。
次に、調光卓の問題。
今まではホリゾントライトで言えばRGBY4本のフェーダーで色を作っていましたが、LEDライトになると機材の中に4色が入っています。そのため、色を混ぜる方法が今までと変わり、作った色をパターンとしてどこかに記憶しておき、そのパターンを呼び出すことによりその色を再生するという考え方に変化し始めているとのことです。
感覚的には、PhotoshopやIllustratorのスウォッチみたいなものでしょうか。
これからは、フェーダーやチャンネルといった概念から離れていく必要がありそうです。
LEDとハロゲンの違い
LEDを制御するには、ハロゲンと一番違う点としてインテンシティーchが必要になるということです。インテンシティーchとは、上記でも述べたとおり機材の光源自体の明るさを制御するチャンネルの事です。さらに、ハロゲンで出しているときには現れなかった色が現れることがあります。この点については、特性上そういうものだという認識で捉える必要があります。
また、ゲージを落としていった場合、LEDは色味に変化はありませんがハロゲンランプの場合は特性として色温度も下がっていくため赤みが増していきます。この変化が照明の演出として重要な要素であることが多いため、ここをどう解決していくかが課題となります。
この特性を現すため色温度が変わるように設計することも可能ですが、その分機材の値段は上がります。正直なところ、ホール側としてはそこまでコストを掛けてほしくはないです。
ただし、フルで点灯した場合は各社とも非常にハロゲンランプに近い色味になっています。演色評価指数という数値でハロゲンランプを表すとRa99のところ、各社とも計測してみるとRa95とのことなので、だいぶ各社とも努力されています。
色温度に関しては、ハロゲンランプがだいたい3050Kくらいで、LEDに関しては各社とも3100k~3200Kとなっていて、ハロゲンに近い数値となっています。
スペクトル分布に関しては、ハロゲンランプは紫外線から赤外線に向かって赤成分の多いカーブをしていますが、LEDに関してはRGBそれぞれにピークがあり赤外線側はぐっと減っていきます。
各社製品を比べてみる
続いて、各社製品を実際に触りながら比べてみます。
松村電機製作所
やっぱり最初は、松村電気製作所でしょう。松村はボーダーライト、アッパーホリゾントライト、天反ライト、凸レンズスポットライト、フレネルレンズスポットライトがそれぞれ展示されています。
スクリーンに向けて照射してあるのですが、立ち上がり方はハロゲンと同じくらいゆるやかな調光カーブを描いていて、LEDが出始めの頃のようないきなり明るくなるような感じはなくなっていました。
天反ライトについては、近くで見ると、LEDライトの特性である目を刺すような感じがありますが、これが実際に天反として装備された場合に実際にピアニストにとって演奏への影響を知りたいところです。
丸茂電機
続いて丸茂電機。こちらは、営業の方が実際に操作しながら製品の説明をしていてとてもわかり易い説明でした。
ホリゾントライトとして使用する場合、例えば青から赤に変化させる場合はハロゲンでは紫に変化してから青に変化しましたが、LEDの場合はまっすぐ白い部分を通って変化するため今までにない変化をします。
この特性については、キュー進行で操作する場合は青から赤への変化の間にひとつ紫のキューを挟んで操作するとよりハロゲンと同じような変化になるとのことでした。
スポットライトについては、ハロゲンと比べて絞っても球の芯の影が出ないというメリットがあります。ただし、カラーフィルターの再現には苦労しているようで、例えば#22の場合は#A5を入れてハロゲンと同じ色味を出していました。
どうやってハロゲンと同じ色味を再現するか
続いて、パナソニックと東芝エルティーライティングですが、こちらは照明家の服部基先生がポリカラーの色味を実際に試していたのを見ていたので機材には触れていません。
LED電球とハロゲン電球の違いでも述べたとおり、ハロゲン電球には、赤外線を多く含んでいて光量を落としていくと赤みが増すという特性があります。そのため、色成分を分析して同じ色を出したとしても、見た目や出した色は同じに見えても人の肌に当てたときに全く違って見えるのです。
特に#78は顕著にそれが出ていて、丸茂の方の説明を聞いたときには出した時の色は同じに見えていて補正も必要がありませんでしたが、手に当ててみるとハロゲンは赤みが出ているのに対し、LEDはまったく赤み成分が出ていないので違った色味となっていました。
今回試していた色は、#22、#31、#45、#64、#67、#78、#87、#88、LEE#201などです。各社とも使っているLED素子が違う分出ている色味が多少なりとも変わるため、それぞれ試した色の中にも得意な色味、不得意な色味など違いがあります。そこをどうやって克服するか、各社とも苦労しているようです。
しかし、こうやって各社がハロゲンと同じ色味を再現するための対処法を試してユーザーに伝えることが今後移行するにあたり大切なことなのです。
仕込みの風景を見ながら質疑応答
次は、明日の実演のための仕込み風景を見ながらの、質疑応答です。今回の技術者会議は、現役照明家だけでなく学生や劇場管理者なども対象にしているからだと思われますが、すっかりライトブリッジのホールからも外部業者対応からも離れてしまったくらげにとっては非常にありがたいです。
仕込みを見ているさなか、せっかく4社のメーカーが揃っているということで質疑応答が始まりました。
2kW以上の灯体は開発するのか
現在、LEDスポットライトは各社ともサスや予備灯体として使うための1kWしかありません。しかし、今後さらにLED化が進んでいく以上、幕前のシーリングやフロントサイドに使用することも想定していかないといけません。そこで必要となるのが、2kW以上のスポットライトです。
各社によると丸茂は開発中、松村は検討中、東芝が開発中、パナソニックは検討中とのこと。意外と取り組みが遅いことに驚きました。
電源の別置について
現在、灯体の電源は各灯体で取る必要がありますが、これを24Vくらいに落として電源別置することはできないかという質問が上がりました。各社とも「それは考えていなかった」ということで検討する余地があるとの回答でしたが、それぞれ素子の電圧がバラバラのため、そこをどう対処するかが課題です。
続いて、くらげからも質問してみました。シーリングなどで使う場合、冬は暖房器具の使用によりかなり温度が上昇します。全部LED灯体ならそこまで温度が上昇することはないと思いますが、ハロゲンと併用した場合は高温になるので、そういう周辺温度に対してはどう対処するのか。という質問をしてみました。
各社の回答は、丸茂の基盤が40度、松村が35度、東芝が35度、パナソニックは35度とのこと。もちろん、それ以上の気温に対しても耐えられるようにはなっているとのことですが、現段階では確実に40度以上になる環境が多く存在しています。
そういった突っ込みをしたいけど、いっぱいいっぱいでできなかったら、他の方がうまくフォローしてくれたので助かりました。おそらく、各社にとって要検討課題にはなったと思われます。
経年劣化、個体格差による明かりのバラつきについて
東芝の回答。
LEDは点灯時間が2万時間で明るさ70%以下になったら寿命と言われていますが、東芝では2万時間を過ぎても90%をキープしているため、経年劣化はそこまで置きないのではないかということです。また、個体格差については、基盤を選別して同じ明るさを揃えているとのこと。
パナソニックの回答。
東芝と同じように、ばらつきを少なくするために選別をしているとのこと。また、光束の変化を抑えるための努力をしているとのことでした。
丸茂、松村に関してはあまり明確な回答は得られませんでした。
メンテナンスについて
ホコリやスモークオイルが付着した場合の対応についてです。
東芝の回答。
ムービングライトと同様に油性のオイルに対しては弱いとのこと。また、基本的に、メンテナンスが必要な器具であるという認識を持って、長く使って欲しいとのこと。また、器具にRDMという規格により使用時間や点灯時間を器具が覚えているので、技術者が確認することができるそうです。
パナソニックの回答。
メンテナンスが必要な器具であるという使い方をして欲しいとのこと。
同じく丸茂、松村に関してはあまり明確な回答は得られず。
既存の負荷回路を直回路にしてLEDに対応できるのか・20台近く吊ってフル点灯した場合の消費電力
丸茂の回答。
調光基盤の種類によるが、古い基盤で純直のできないユニットの場合は基盤工事が必要とのこと。ハロゲンの1kWのLEDスポットの消費電力は150Wなので、回路は2.3~2.4kWあれば十分とのことです。
東芝の回答。
実際に調光基盤をそのまま直回路にして使うという工事は実際にやっているとのこと。また、現存のハロゲンスポットの1/4〜1/5程度設置してもらえれば相当の明るさが出るとのことです。
パナ・松村の回答。
ほぼ同上。
締めくくり
今後、LED化が進んでいくことは避けて通れない道です。現場で仕事している照明家だけでなく、ホール技術管理者や施設管理者なども含めてメーカーと一緒に考えていく時期が来たのではないかと服部氏も述べていましたが、まさにそのとおりだと思います。
そういう意味では、今回初めて国内メーカー4社が揃ってのセミナーでしたが、かなり突っ込んだところまで話が聞けたのではないかと思います。