さいたま芸術劇場が、半年間の大規模改修工事を終えて内覧会を開催するとのことを聞きつけて、はるばる見学してきました。
彩の国さいたま芸術劇場は、さいたま市内にある県立の劇場です。優れた舞台芸術等の芸術文化に身近に接する機会を提供し、及び埼玉県民の芸術文化活動を支援することを目的として、1994年10月に開館しました。
開館から26年以上が経過したため、2022年10月から老朽化した施設・設備を改修、更新するために大規模改修工事を実施。2024年3月1日(金)のリニューアルオープンに先立ち、2月8日に内覧会が開催されることになったのです。
それでは、さっそく新しくなった劇場をご案内いたします。
ロトンダ
まずは、エントランスです。広場を中心に建物がぐるりと円になっていて、ロトンダという名称で呼ばれています。イタリア語で円形の建物や広場のことをいい、大ホール、小ホール、音楽ホールの入り口がこのロトンダに面しています。
中心にあるのは、光の庭。ここは、建物内に光が差し込むように設計されていて、夜になるとライトアップされます。
今回の改修工事では、光の庭の音響設備と照明工事が更新されました。照明はフルカラーLEDになりました。
情報プラザ
建物の1階は、情報プラザ。ちょうどロトンダの下に位置し、光の庭を囲むように舞台芸術資料室、カフェテリア、利用者交流コーナー、ポスター・チラシコーナーなどがあります。
光の庭に差し込む陽の光が、時間帯によって様々な表情を見せてくれています。
椅子も、まるで芸術作品のよう。
こちらは舞台芸術資料室。
演劇・音楽・舞踊・映像などの舞台芸術に関した図書、映像、CD、雑誌などの様々な資料を収集した舞台芸術資料が揃っています。
貸出は行っていないため、持ち出しはできませんが、資料を探すのに役立ちそうです。
舞台芸術資料室のお隣は、カフェスペース。3月1日オープン予定です。
映像ホール
さいたま芸術劇場には、なんとミニシアターのような映像ホールまで備わっています。今回の改修では特に映像ホールは何も改修はしていません。
内覧会では、改修ポイントについての説明動画が常時流されていました。
ガレリアと各練習室
総合受付から情報プラザにつながるまでの通路は、とても明るい吹き抜け空間になっています。ここは、稽古場、音楽ホール・小ホールの楽屋口にある長い通路で、幅5m、長さ100mあり、とても開放的です。
練習室は、主に音楽の練習に使用するための部屋で、4管編成のオーケストラでも練習可能な広さの大練習室、20名程度が入れる中練習室、小編成の音楽の練習などに使える小練習室が4つ完備されています。
さらには、演劇やダンス、バレエなどに利用できる稽古場もあり、大ホールの主舞台+額縁スペースをもつ大きさの大稽古場、鏡、バレエバーが設置されている中稽古場が2箇所、少人数の稽古などに使える小稽古場が3箇所完備されています。
今回の改修では、大練習室の床を全面改修して音楽だけでなく多目的な利用ができるようになったのと、各部屋の換気量をアップして衛生環境が向上しました。
では、いよいよホールに向かいます。
小ホール
まずやってきたのは、小ホールです。
演劇、ダンス、音楽等の多彩な舞台表現の試みや創造力の育成に適しているホールです。
すり鉢状の客席を持つオープンステージのホールで、舞台形式と客席数との関係を変化させることができます。
小ホール|彩の国さいたま芸術劇場
という劇場紹介にあるとおり、多目的に使用できるホールです。デフォルトは舞台を囲むように作られた半円形の客席ですが、客席は可変式で、266席から298・346席の増席することが可能です。
小ホールの改修ポイントは、主に3つ。
- 天井の準構造化
- ホール客席椅子の更新
- 音響設備のデジタル化
こちらが、更新された椅子です。見た目は硬そうに見えますが、実際に座ってみるとふっかふかです。これなら2時間おしりも余裕で鑑賞できます。
音楽ホール
続いて、お隣の音楽ホールに向かいます。外からのエントランスは分かれていますが、建物内はつながっているので雨に濡れずに移動できます。
室内楽を中心とした音楽会のためのシューボックス型のホールです。
温かい色彩で、自然の響きを大切にしています。
高窓から自然光を取り入れることができるので、アフタヌーンコンサートなどで、くつろいだ雰囲気の音楽会も楽しめます。
音楽ホール|彩の国さいたま芸術劇場
客席数は604席で、中ホール程度の大きさです。落ち着いた茶色がメインカラーで、木のぬくもりを感じられる雰囲気です。
音楽ホールの改修ポイントは、4つ。
- 天井の準構造化
- ホール客席椅子の更新
- ホワイエにエレベーターを設置
- 手すり形状や座席の向きを変えて2階席も見やすく
音楽ホールでは、1時間に一度、デモンストレーションとしてピアニストによる演奏が行われます。ちょうど演奏の時間だったので、わたしも入って演奏を聴いてみることに。
座ったのは、中列くらいの下手側です。ピアノの音は上手の方に飛びますが、あえて下手側を選んでみました。
音楽ホールの残響時間は満席時で約2.0秒。ほどよい残響時間です。
客席は8割位埋まっていましたが、聴こえづらいということもなく演奏を楽しむことができました。
大ホール
最後に、大ホールです。
演劇、ミュージカル、オペラ、バレエ、ダンス等のためのプロセニアム型のホール。肉声が届く最適の客席規模、臨場感あふれる客席空間です。また、国内最高レベルの舞台の広さ、高度な舞台機構・照明・音響の各設備を持ったホールです。
大ホール|彩の国さいたま芸術劇場
大ホールの改修ポイントは、5つ。
- 天井の準構造化
- ホール客席椅子の更新
- 舞台床を全面張り替え
- 2階席も座席の向きを変えて観やすく
- 舞台吊物機構を更新
客席は776席。大きすぎず、程よい大きさです。
大ホール客席をうろうろしていたら、スーッと緞帳が降りました。どうやら、デモンストレーションが始まるようです。
この鮮やかな色彩が目を引く緞帳は、埼玉県内の芸術家が描いたもの。グレーの下地は埼玉県を表し、色とりどりのラインは多種多様な芸術文化を、そして動きは荒川の流れを模しています。
改修時には、取り外して工場でクリーニングしています。
さて、時間通りにデモンストレーションが始まりました。まず最初に大ホールの改修の説明がされたあと、緞帳が上がってオペラカーテンが登場しました。
舞台機構のデモンストレーションという説明はあったものの、舞台上にはリノリウムが敷いてあったのでおそらく創作ダンスか何かだろうと思っていたのですが、幕が開いてみると全くの説明通りでした。出演者は、30本以上の美術バトンと5本のライトブリッジです。
吊物機構は、カウンターウェイト方式から、ワイヤー巻取り方式に変更しています。動作音が抑えられ、より複雑な動きもできるため、演出性も向上しました。クラシック音楽に合わせて、滑らかに動くバトンたち。
照明はムービングライトとLED PARで、よりバトンたちが美しく、よりかっこよく動きが見えるようにデザインされています。
柔軟に昇降するバトンたちがハケて(上昇して)行ったと思ったら、最後に5本のブリッジたちがゆっくりと降りて、徐々にオペラカーテンが閉まってきたと思ったら、音楽が終わるのとぴったりでオペラカーテンが閉まり切りました。
思わず、吊物たちにブラボーと言いそうになりました。もちろん、プログラムしたのは人間ですけど。
大ホールの楽屋裏
大ホールはデモンストレーションの出演者に楽屋が必要ないため、楽屋周りも公開されています。
楽屋は、小4室、中2室、大2室とかなり充実しています。さらに、シャワー室や洗濯機と乾燥機も完備。出演者が多く、衣装も多いオペラなどにも対応できます。
さらに、楽屋から舞台袖への動線はとても広くてスロープになっているため、衣装ハンガーや衣装ケースなどを運ぶのにも苦労しません。
締めくくり
さいたま芸術劇場は街の中に溶け込んでいて、建物全体、内装の細かいところからベンチなどの備品にアート性を感じることができる劇場です。
内覧会に来ていた方々も、老若男女様々で、市民から愛されている劇場なんだなと実感しました。
改修工事で劇場の使い勝手が向上し、寿命も伸びたことで、この先も末永く埼玉県民から愛される劇場づくりを目指してもらいたいなと思います。