3回に渡ってお伝えしてきた、「ホールで初めて照明を使う人のための段取り」シリーズもいよいよ最終回となりました。ここでは、明かりづくりから場当たり、ゲネプロ、本番、バラシを経て搬出までの段取りを説明していきます。
ホールで初めて照明を使う人のための段取り【搬入〜仕込みまで】
ホールで初めて照明を使う人のための段取り【シュート】
明かりづくり
明かりづくりでは、客席でプランナーが座ってインカムでオペレーターに指示をして明かりを作ります。客席に持ち込みの調光卓を設置した場合は、その場で作ることもあります。
今回の公演ではプランナーがオペレーターも兼ねていますが、ゲネプロまでは別のオペレーターが操作するという前提で話を進めていきます。
明かりづくりに入る前の準備として、ホール・劇場スタッフには事前に客席にインカムを設置してもらえるように伝えておきましょう。
また、客席に机を仮設できるプランナー卓と手元明かりがホール・劇場にあれば借りましょう。プランナー卓があると台本や資料を広げられるので便利です。なければ譜面台を借りましょう。
手元明かりに電源が必要な場合は、客席のコンセントから延長ケーブルを引き回しておきます。(客席コンセントの使用に関してはスタッフに要確認)
オペレーターはホール・劇場スタッフにあらかじめシーン記憶・修正方法、フェードタイムの記憶・修正方法、サブフェーダーの記憶・修正など必要になる機能の操作方法を聞いておきましょう。
もし操作に不安であるようなら、ホール・劇場スタッフにキューの打ち込みをお願いしましょう。たいがいのホール・劇場スタッフは快く応じてくれるはずです。
プランナーとオペレーター以外のスタッフは、舞台上で役者代わりに立ちます。場面転換がある場合は舞台監督や演出部に立ち会ってもらい、随時場面転換をしながら作っていきます。
照明スタッフはただ舞台上に立っているだけでなく、サスが点灯したら中に入る、セットの上に立つなどその明かりの中で必要に応じた動きをする必要があります。
非常灯を消灯するときは、ホール・劇場スタッフに伝えておきましょう。あらかじめ申請書の提出が必要なところもあります。非常灯は客電と連動しているところと、調光室壁面に設置されている非常灯スイッチを操作する場合の2種類あります。
場当たり稽古準備
明かりづくりは時間内に終えることができました。このあと、18時30分から役者が入ってきて場当たり稽古が始まります。場当たり稽古までに30分の準備時間があるので、ここで打ち合わせと準備をしてから夕飯を取ります。
ピンスポットライトオペレーター(別名:センター。)は、荷物を持ってピンルームに向かいピンチェックを行います。今回プランナーからピンのゼラ指定はないため、ディフュージョンフィルターや薄い色などピンに使うゼラと紙シートを数枚ピンルームに持っていきます。
ピンの操作については下記の記事を参考にしてください。
クセノンピンスポットを操作するための取扱説明書【基本編】
クセノンピンスポットを操作するための取扱説明書【応用編】
その他の人は、SSなどフロア回りのケーブル養生を行ないます。ホールや劇場に養生マットが用意してあればそれを使わせてもらいます。使うテープは養生テープなどの弱粘テープを使用します。
ただし、養生テープでも床の表面が剥がれやすいところもありますので、念のために床に使用できるテープを聞いておきましょう。
場当たり稽古
場当たり稽古でも引き続きプランナーは客席から指示をし、オペレーターが指示通りに操作していきます。オペレーターは操作をしながら、プランナーの言われたとおりにキューの修正や追加もしていく必要があります。
センターさんは指示されたキューどおりに出しながら、使うゼラなどを決めていきます。
場当たり稽古は予定のシーンまで到達しないまま、予定時刻より20分押しの21時20分に終了。直しは明日に回すとして、退館準備を行います。
退館時と仕込み日以降の入館直後の段取り
調光オペレーターはホール・劇場スタッフにデータのバックアップを依頼しましょう。ホール・劇場側にバックアップ用のフロッピーディスクやUSBがありますので、データを保存してもらいます。
調光卓を消灯するのはホール・劇場スタッフで行ないますので、忘れ物の確認して調光室を降ります。くれぐれも、充電したままのスマフォを置き忘れないようにしましょう。
ピンスポットオペレーターはダウザー、カッター、アイリスを閉じて電源を消灯し、防火シャッターの下には何も状態にしておきます。また、照準にドットサイトを使用している場合は電池を抜いておきましょう。
手元明かりや部屋の蛍光灯、空調のスイッチを消灯したら、忘れ物の確認をしてピンルームをおります。くれぐれも、充電したままのスマフォを置き忘れないようにしましょう。
メタハラ光源のムービングライトなどクーリング時間が必要な持ち込み機材を使用している場合は、クーリングを終えてから電源盤から抜くかブレーカーを落としてもらいます。スプリッターの電源なども抜けるものは念のために抜いておきましょう。
持ち込みの調光卓でホールのユニットを使用している場合は、ホール・劇場側で作業灯と客電を上げてもらってから調光卓の電源を落とします。
すべての退館作業を終えたら、明日の入り時間を伝えてホール・劇場を退館します。
翌日の朝、入館したら持ち込み機材の電源を入れます。ホール卓はすでにホール・劇場スタッフが起ち上げています。
持ち込み調光卓での操作の場合は、作業灯と客電を上げたらホール・劇場スタッフに伝えて、ホール・劇場側での操作を落としてもらいましょう。
以降の退館時と入館時の作業は同様に行います。
ゲネプロ
前日は予定通りのシーンまで進まなかったせいで翌日も30分押しで場当たり稽古が終了。直しをして、これからゲネプロの準備に入ります。
ゲネプロからはプランナーが調光室でオペレートをするため、客席にあったプランナー卓や電源、インカムを撤去します。
本番
もし失敗をやらかしてしまった場合は、引きずらないために深呼吸して気持ちを切り替えましょう。後悔しても時間は巻き戻りません。
ちなみに、主成分がブドウ糖のラムネを食べると集中力が上がります。
バラシの段取り
千穐楽になったら、舞台監督筆頭で各セクションとバラシ打ち合わせを行い、バラシの段取りを決めます。また、ホール・劇場スタッフともバラシについて確認しておきましょう。
基本的には原状復帰ですが、次にまた別の照明業者が入る、ホール・劇場の催事で使用するなどの理由でこの灯体とこの灯体を残しておいてほしいと言われることもあります。
また、バラシ要員を発注している場合は終演時間前に集合してもらい、スタッフ用の控室があるようならそこで待機してもらいます。
バラシから搬出
すべての本番は無事に終了しました。これからバラシが始まります。
本番終了後、調光卓は書き込んだ表示をすべて消して、貼ったテープを剥がします。データはホール・劇場管理スタッフが消去しますので何もしなくて大丈夫です。
忘れ物がないか確認をして、調光室を出ます。出るときに振り返ってもう一度忘れ物がないか確認しましょう。スマフォを椅子の上に置いたままにしていませんか?
ピンスポットオペレーターはピンルーム内を原状復帰して、荷物を持って前明かりのゼラの回収に向かいます。ただし、スポットライト前面に金網がないシーリングや客席に張り出しているフロントサイドなど、お客さんがいる状態で作業を行うことが危険なところは、完全にお客さんがいなくなった時点で作業を行います。
舞台上は、フロア回りからバラしていきます。バラした機材とケーブルは搬出のじゃまにならない場所か収納場所にまとめておきます。
吊り物類を降ろすときは大道具や音響と連携して安全確保に努めましょう。舞台上が一通り落ち着いたところで、サスを降ろします。舞台前ではまだ音響さんがスピーカーを撤収しているので、先に2サスから降ろすことにします。
まず周囲に「2サス降ろします。」と周知してから、ホール・劇場の操作盤担当者に「2サスダウンお願いします。」と大きな声で伝えます。
そのときに、周りにも「2サスダウンしています」と声を掛けて周知させます。同時に他のバラシ要員は安全に昇降できるように監視しましょう。立ちおろしケーブルがあればケーブルに付いて絡まないように介錯をします。
持ち込み機材があれば、収納する箱をサスの後ろ側に用意しておきます。
手の届きそうな位置まで降りてきたら、操作盤担当者に「間もなくです」と声を掛けます。そして、ダクトのコンセント上部に手が届く位置まで降りたら「はい」と声を出して停止してもらいます。
サスが降りたら、まず灯体に入れたゼラとゴボネタなどを回収します。上手と下手の両側からセンターへ向かっていくとスムーズです。
延長したケーブルを抜いたときは、プラグやコネクタ部分が床に落下しないようゆっくり垂らしましょう。サスの原状復帰はダクトにテプラなどで吊り位置が貼ってあればそれに従います。
灯体のケーブルは折りたたんでハンドル部分に差し込む、灯体に巻きつける、ダクトに掛けるなどいろいろ方法がありますので、ホール・劇場スタッフの指示に従います。全部吊り終わったら、ホール・劇場スタッフに最終チェックをしてもらいます。
すべてのバラシを終えたら、ホール・劇場から借りた機材やケーブルを元の場所に返却します。機材とケーブルは数を数えてケーブルラックや棚に書いてある本数通りに戻しましょう。
シート枠を借りていたら、ゼラの色を抜いてシート枠の枚数を数えて返却します。フロントサイドやシーリングライトのゼラ回収を後回しにしていた場合は忘れずに回収しましょう。
バラシと同時並行で、持ち込み機材やケーブルのチェックと荷造りを行ないます。荷造りを終えたものから台車を借りて搬出します。搬入口の扉はホール・劇場スタッフでないと開けられないところもありますので、必ず確認してから開けましょう。
ホール・劇場スタッフに最終チェックをしてもらいます。ホール・劇場スタッフからOKが出たら作業終了です。最後に忘れ物がないかもう一度舞台を回ってチェックします。ピンルームの復帰を後回しにしていた場合は忘れずに復帰しましょう。
ホール・劇場スタッフに挨拶をして、ホール・劇場をあとにします。
締めくくり
劇団鯖の水煮第二回公演は、何事もなく無事に全行程を終えることができました。
ここに書いたことは、例えて言うならカレーを作ったことがない人のための「基本のカレーの作り方」です。カレーを作ったことがない人がいきなりマッサマンカレーを作ることはできませんので、まずは基本の作り方を覚えてください。
基本に沿ってやっていくうちに、身体で覚えていってそのうちレシピを見なくてもカレーを作ることができます。そのうちに素材を変える、味付けを変えるなどの応用が効くようになります。また、他の人のやり方を見る機会があればやりやすそうな方法を真似してみてください。
ホールや劇場は小劇場と比べると決まったお作法の多い場所ですが、基本さえ覚えてしまえば応用はいくらでも効きます。
それではどうぞご安全にご利用くださいませ。