先日、初めての反響板設置のための袖幕たくし上げ作業を行いました。
たくし上げ作業とは、その名の通り袖幕をたくし上げる作業です。
垂らした状態のままだと、一番上に飛ばしても側面反射板を設置するときに袖幕と干渉してしまうため、袖幕を半分くらいの高さになるまでたくし上げる必要があるのです。
前回のお話:反響板を設置するための袖幕たくし上げをする
どこでも行われている、反響板設置のための事前作業
この反響板設置のための事前作業は、ほぼ全国の小規模から中規模のホールでも必ずと言っていいほど行われています。
QUADRA MIX SOUNDのブログ|反響板 袖幕
多くのホールで行われている作業としては、「吊物装置を一番上まで飛ばし切る」というのと、「幕類のたくし上げ」です。
この作業は、ほぼ全国の小規模から中規模の多目的プロセニアム形式のホールで行われています。
音響反射板は、狭い舞台の天井と側面に巨大な厚みのある蓋をするため、反響板組み立て作業の導線にあるものをすべて撤去しないといけません。
吊物装置にはボーダーライト、第1サスペンションライトと第2サスペンションライト、アッパーホリゾントライトなどの照明設備、緞帳、1〜4文字幕と1〜4袖幕、大黒幕、ホリゾント幕などの幕類、そして吊り物バトン、スクリーンがあります。
これらは天井に蓋をするのにすべて導線上にあってぶつかってしまうので、ぶつからない一番上まで上げて避難させておかないといけません。ほとんどの吊物昇降装置にはこれらが一番上まで上がりきっていないと反響板を操作できない仕組みになっています。
続いて「幕類のたくしあげ」です。これは、側面反射板が移動するときに干渉しないようにするための処置です。
側面反射板は、文字通り舞台側面を塞ぐための反射板です。通常のサスを使う状態だとちょうど袖幕の位置に当たります。
垂らした状態のままだと、一番上に飛ばしても側面反射板を設置するときに袖幕と干渉してしまうため、袖幕を半分くらいの高さになるまでたくし上げる必要があるのです。
ホールによってやり方は様々ですが、一部ホールで行われているやり方を紹介します。
- 袖幕を3分の1くらい床に着くまで降ろします。
- 袖幕を抱えながら端をくるっと巻きつけ、カンガルーのポケットを作ります。
- 下の方の幕をすべてポケットに詰め込みます。
- 全部詰め込んだら、落ちないように包み込みます
- 袋詰にします。
- 特に4袖幕は定位置に設置されるまでに側面反響板の吊りワイヤーが非常にすれすれの位置を通過するので、前後から押して平たくします。
事前作業は時間がかかるため、機材リストに明記されているホールもあります。
ロームシアター京都 サウスホール
朝倉市総合市民センター大ホール
また、たくし上げでも対処できず、毎回取り外しているところもあります。
設計する人は意匠ばかり気にして、現場経験が無いからなのでしょう。
ウチは反響板の為に、袖幕を取り外す日々です。— yohsuke TAKASHIMA (@yo_chan_de) 2017年6月24日
中には、通常なら照明機材を常設できるはずの第1サスペンションライトに、反響板と干渉するため照明機材を吊っておくことができないホールなどもあります。
芸術劇場などの舞台の奥行きも舞台袖もフライタワーもたっぷりと広さを取っている劇場ならまだしも、文化会館や市民ホールなどの狭い舞台上に無理やり反響板が詰め込まれているホールだと、どうしたって問題は生じてしまいます。
そういった反響板を設置する上で浮上する問題をどう対処するかは、ホールや劇場を管理しているスタッフたちのスキルによって賄われているのが現状です。
また、反響板を設置するための作業時間もまったく考慮されていません。
反響板設置のための事前作業も含めると、反響板の方式に関わらず設置完了までに30分以上は掛かります。
本当にこのままでいいの?
今まで、「そういうものなのだ」という認識でいました。それが当たり前だと。
でも、よーく考えてみてください。いろいろな利用者に利用してもらうため多目的に対応できる舞台機構にした結果、本来の舞台の使い方に支障が出るようでは、本末転倒じゃないかと思うのです。
このまま、反響板を設置する上で浮上する問題の対処を、ホールや劇場を管理しているスタッフたちのスキルだけに任せておいてよいものなのでしょうか。
舞台設備施工管理メーカーとして代表的な森平舞台機構株式会社、三精輸送機、カヤバ システムマシナリー株式会社も音響反射板の仕様などの記載はありますが、音響反射板収納時もしくは使用時のデメリットについては記載されていません。
メーカーとしても、現場で発生する問題についてもっとホール・劇場運営者や建築デザイナーに対して提言してほしいところですが、恐らくメーカー側でも把握できていないのが現状なのでしょう。
なんで今だに新しく作ってもあれなのかが不思議
— えさ (@hiro_esaki) 2017年6月24日
そういう作業をしなくてはならない手間がかかることについて、現場の声が全く伝わっていないんですよね。
— そらいろくらげ (@yukie_suzuki725) 2017年6月24日
メンテ部門と工事部門ですらノウハウの共有は少ないらしいので、現場の声はなおさらでしょうね……
— えさ (@hiro_esaki) 2017年6月24日
本当は全国規模でホールや劇場の反響板設置に関する諸問題を調査したいところですが、ただでさえいろいろなしがらみの多い舞台業界のこと。ただのちっちゃくて奇妙な青いくらげではどうしようもできません。
せめて、こうして記事に書いて「反響板のためにこういうことが起きているんだよ」ということが知れ渡ってくれたらいいなという思いで書いてみました。